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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第19回 品質優先・コスト犠牲の栽培技術 日本の風土に根差したワイン マンズワイン小諸ワイナリー(長野県小諸市)
- 評論家 叶芳和
- 第39回 2020年07月27日
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1 上田・佐久地方のテロワール――醸造業発展(信州味噌)のルーツの地
信州小諸というと、「小諸なる古城のほとり~」(島崎藤村)や「小諸出てみよ 浅間の上に~」(小諸馬子唄)を思い出す。小諸市は浅間山麓の南斜面、千曲川の上流域に位置する。マンズワイン小諸ワイナリーはこの地に立地している(1973年開設)。醤油大手のキッコーマンが親会社である。
長野県東部(東信地区)、北佐久地方の小諸市は、古くから醸造業が発達している。信州味噌は全国味噌生産量の約5割を占めるが、信州味噌のルーツは隣の佐久市の安養寺といわれる(注1)。戦国時代、信濃の大部分は甲斐の武田氏に支配されており、武田信玄が兵糧を現地調達するため味噌づくり(塩の備蓄)を信州各地で奨励したため普及した。小諸市の信州味噌(株)(創業1674年)も346年の歴史がある。
このように、小諸は古くから醸造業が発達してきた。冷涼な気象が要因といわれる。ワインも醸造業である。マンズワインの立地は、「降水量が少なく、一年を通して陽光が降り注ぐ地であり、ワイン造りに最適な地として選んだ」と現代的説明であるが、味噌醸造業のルーツの地であり、ワイナリー立地は神の啓示があったのではないか。小諸はテロワールを肌で感じる地だ(表1参照)。
小諸は、江戸時代に江戸と越中・越後を結ぶ北国街道の宿場町で、街道が賑わいを見せていたこともあって、古くは東信地方の商業の中心として栄えた。しかし明治4年、廃藩置県で長野が県庁所在地となったことに伴い県庁に近い上田に拠点機能はシフトし、さらに1997年、長野新幹線佐久平駅の開設に伴い、北佐久地方の拠点都市機能は移っていった。しかし、小諸市は昔の栄華が残り、今も水準の高い都市である。
旧追分宿の外れ中山道と北国街道の分岐(分去れ)に立つと、時代の今昔を感じる。左が中山道、右が北国街道。左の道は車がビュービュー音を立てて走り道路を渡ることもできない。一方、右側の道はたまに車も来るが、軽井沢の旧ゴルフ通り林道を散策するような静けさである。加賀百万石をはじめ幾多の大名行列、善光寺参り、そして佐渡の金、越後の蝋(ロウ)、塩など物流で賑わった北国街道は、味わいがある。
マンズワイン小諸ワイナリーは、この小諸市に立地している。冷涼な気象で醸造業の発展に向いている。世界の銘醸地ブルゴーニュに近いテロワールの東信地方を選んで立地したセンスが光る。軽井沢の隣であり、ワインツーリズムにも最適なのであろう。年間10万人もの人たちが訪れる。ワイナリー訪問客数としては日本一か(出雲大社詣での参拝客の受け皿、島根ワイナリーを除く)。ワインへの魅力が高まるとの思いから、ワイナリー側も訪問客の受け入れに積極的である。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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