記事閲覧
【土門「辛」聞】
“冬のお化け”話で煽る種苗法改正反対派に根拠なし(2)
- 土門剛
- 第191回 2020年07月27日
- この記事をPDFで読む
綿作農家の自殺原因は種代か
鈴木さんが仕掛けた“冬のお化け”初デビューは2012年のようだ。TPP反対組織のサイトで見つけた「鈴木宣弘」の名前入り「TPP参加に向けての国民無視の暴走を止める」の7月11日の日付が付いたメモ書き文書で判断した。TPPが抱えていた問題点を網羅的に整理してあり、なるほどな、と思わせるのもあれば、これはちょっと、と思ってしまうようなものもあった。
後者の代表例が「遺伝子組換え食品が世界を襲う」。“冬のお化け”はここで登場する。文中の「M社」は、鈴木さんの商売道具となる米モンサント社のことだ。
「遺伝子組換え体(GMO)の種子販売がM社などに独占され、特許がとられており、TPPで世界中の種がGMOになっていくと、世界の食料・農村はM社によってコントロールされていきます。GMOの種がこぼれて在来種が『汚染』されていく事態も広がっています。農家はそれまで自家採種してきた種を、毎年高い値段で買い続けなければならなくなります。そのための借金などが途上国の農村経済に暗い影を落としていることが、インドの農村の自殺率の上昇の例で指摘されています」
東大教授の肩書きを持つ方にしては極めてズサンな内容。ポイントとなる「農村の自殺率の上昇」の裏付けデータがないことだ。インド内務省全国犯罪記録局に自殺者を職業別に整理した統計がある。「農場経営・農業従事」という分類があり、全自殺者に占める割合も示されている。モンサントがインドにGM種子を導入したのは2002年だった。
1995年以来の数字を追ってみた。確かに2002年は最多の1万7981人。それ以前も1万6000人台が4年続いていた。鈴木さんがそのメモを書いた12年は02年に比べて23・5%も減っている。GM種子が急速に普及するにつれて、自殺者が減っていったという見方ができないだろうか。
次いでGM種子を毎年買い続けたことが自殺原因になったという記述。これも根拠が示されていない。因果関係を示すドンピシャの統計はないが、傍証としてインドの農村における綿作農家の自殺者急増を扱った報道記事は参考になる。
14年5月5日付け英ガーディアン紙。「インドの農家自殺、GMOが関連か」という写真特集は、「コストのかかるGM種子、肥料、殺虫剤の導入」による借金と指摘しながら、一方で「不利な気象条件や、綿花の世界的な価格のほんの少しの低下でさえ、農家に災いをもたらす可能性がある」と丁寧に説明。
会員の方はここからログイン
土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)