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新・農業経営者ルポ

朝日は昇り、花を咲かせる


それからしばらくして福岡県最大の祭典がやってきた。800年の歴史がある夏まつり「博多祇園山笠」だ。日本青年会議所に加盟していた縁で森田も参加したところ、一緒にいた知人が驚いた顔で声をかけてきた。「おい、どうしたんだ。顔が紫色になってぱんぱんに腫れてるぞ」。鏡で自分の顔を見ると、たしかに血色を失って腫れあ上がっていた。
翌日、脳外科医を訪ね、X線で身体の断面図を撮影するCT検査をしてもらった。その画像に写っていたのは、左脳にある8cmほどの「台風の渦のような」影。一目でまずい状況にあることはわかった。
医者は脳腫瘍だと告げた。その病名から思い出したのは、80年代半ばに流行った学園ドラマ「スクール☆ウォーズ」に登場した「イソップ」こと奥寺浩。16歳で脳腫瘍にかかって夭折する役柄だった。
病名に続けて医者はこう述べた。
「余命二年です」
ただ、それを知ってもどこか他人事のような感じがしていた。そんな森田に医者は至急入院することを勧めた。脳出血しており、いつ頓死してもおかしくない状態だったからだ。

三途の川からの帰還

森田は医者の忠言に反して入院を1週間後としてもらい、不在にする間の仕事の引き継ぎをするため、職場に戻った。だが、2日目だったか3日目だったかに倒れた。それでも意識はあったようだ。周囲の話によれば、救急車を呼ぶのは断り、自らタクシーに乗って病院にたどり着いたという。ただ、本人は記憶にない。
病院ですぐに手術を受けた森田は、以後数日にわたって意識がはっきりとしなかった。覚えているのは幽体離脱したことと過去の記憶が「走馬灯のように」よみがえったこと。もう一つは三途の川らしき川を渡ったことだ。
その川は自宅の近くを流れる川そのものだった。「かつてはうっそうとした木々が茂った場所にあった」。その川を父親に背負われて渡った。彼岸の地には稲が茂り、なぜかすでに亡くなっていた祖父がぽつりとたたずんでいた。そこで森田は祖父と言葉を交わした。中身までは記憶していない。会話を終えると、再び父に背負われて川を渡り、彼岸に戻ってきた。それからしばらくして目を覚ましたそうだ。
ここで森田が話を中断したので辺りを見渡すと、峠の霧はさっきよりずっと濃くなっていた。

お金の世界に疲れ切った

森田は一命を取り留めた。これをきっかけに「達観したというわけではないですが、自分の人生でこれ以上最悪なことは起き得ない」と覚悟ができたという。

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