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齊藤義崇の令和の乾田直播レポート

多様化する直播品種

日本農業は有事の際に迅速に増産できるのか

ほんの少し前までは、グローバル化が進み、食の多様化や健康志向が広がっていたとされるわが国の食事情。ところが、新型コロナウイルスの感染拡大によって国境を跨ぐ物流に影響が出て、状況は一変した。
人と人が距離をとれば、外食の機会が減り、家庭消費が増える。加えて、都道府県を跨ぐ移動を自粛し、旅行や帰省を控えるなど、人々の行動範囲は極端に狭まった。購買行動も大きく変化し、インターネット等の通信販売で農畜産物を購入するケースが増えているが、コメに限れば消費量はどちらかといえば減っているようだ。私自身も道内を中心に出歩いていた生活が嘘だったかと思うほど、イベントや会議がぐんと減り、夜な夜な自宅で過ごす暮らしに落ち着いてしまった。
これまでは漠然と、日本はモノをつくるのが得意な国だと思っていたが、マスクをはじめ日用品の多くが海外からの輸入品に頼っていた現実を突きつけられた。アジア、なかでも中国製品が多く、混乱を招いたのは想像以上だった。そして、コロナ禍では、贅沢品ともいえる高価格帯の農畜産物の需要は伸び悩み、手軽に調理できる食材が求められている。輸入食材への依存度も大きく、パンやパスタなどの小麦製品はその代表格と言えるだろう。
世界的な混乱がさらに広がり、輸入制限がかかった場合、本当に国内だけの生産で飢えなどの危機を乗り切れるのだろうか。近年は、農業政策も生産量の維持や食味の向上、健康増進に熱心で、単収を増加する方向に本気で取り組んで来なかった日本の農業現場は、迅速に増産体制をとれるのだろうか。農業技術の研究現場もまた政策に大きく影響を受けてきたわけで、有事にさらされたときに国際的に戦うカードを切れないのではないかと危惧しているのだ。
同時に、小規模な農家の高齢化が深刻化している。そうなると、高効率な生産技術は一部の農家向けではなく、これからの農業に不可欠なものとして捉えられるようになっていく。乾田直播(以下、乾直)にも以前より日が当たるようになってきたように感じている。ともすると、乾直は機械作業体系や除草の話題を中心に語られがちだが、そのほかのアプローチについても触れておかなければならなくなる。日本では水稲の生産技術は体系的に確立されているものの、さらに発展の余地があるとつくづく感じるからだ。今回から数回にわたって、少し幅広い目で関連する話題に触れたいと思う。

もはや「北国だから」は不適地の理由にあらず

前回紹介したように、ここ10年で乾直の作付面積を飛躍的に伸ばしているのは、比較的緯度の高い北海道や東北、北陸などのいわゆる北国である。積算気温を確保できない寒冷地は、かつて乾直の不適地と呼ばれていた。その理由は、春先の出芽温度を確保できずに出芽が遅れ、秋も紅葉の訪れが早く、結果的に実りまでの生育期間を十分にとれないためである。寒冷地での乾直の課題は「出芽」に集約されるといっても過言ではない。

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