ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

齊藤義崇の令和の乾田直播レポート

多様化する直播品種


出芽は、比較的緯度の高い欧米の穀類生産に共通する悩みである。地域ごとに試験研究を行ない、その成果にもとづいて技術を体系化し、現場へ普及する。こうした積み重ねの結果、いまでは出芽のメカニズムはある程度、解明されつつある。
私は研究者ではないので、現場で観察できる範囲で説明しよう。まず、図1は乾直圃場で採取した土塊の断面である。AからDに向かって播種深度が深くなっている。出芽がうまくいかないというのは、CかDの状況である。温暖地なら多少深く播いても遅れて出芽し、問題にならないかもしれない。だが、低温環境下では地表面が温まっても土の中は温まりにくく、種を深く播けばより積算温度が必要になる。一定期間、芽が出ないとその種は腐敗する。つまり、出芽は腐敗との戦いになるのだ。
もう少し詳しく見てみよう。同じ時期に播いた種籾で出芽具合の異なるものを丁寧に洗って播種深度順に並べてみた(図2)。地面の下にあった部分が白くなっている。最も深く播かれた右端の芽は、地表に到達しないまま右に曲がり、出芽するのは厳しい状況だ。出芽率を確保する近道は、播種深度を適切な範囲で揃えることだと理解いただけるだろう。さらに、地上に出ている緑色の部分(芽)と地下の茎や根の成長量のバランスを観察して、管理することも重要な栽培技術である。
次のポイントは種の品質である。良い種もあれば、悪い種もある。写真3の種籾は、Aが良質で、B、Cの順に品質が劣る。AからBまでが出芽すれば良くて、出芽率を上げようとCの種籾まで出芽させようとすると、さらなる工夫を求められる。千粒重や塩水選などで比重の大きい種を選ぶ方法はあるが、それ以上に選別を強化する方法はないので、種の良し悪しを最初から勘案してある程度の量を播くのが正攻法である。おっかないと思えば多く播き、作業体系や種の品質に自信があれば少なくするなど、現場で対応しよう。
さて、出芽を促進する方法には薬剤の助けを借りるアプローチもある。なかでも、植物生育調整剤(ジベレリン処理を含む)を利用した研究は1970年代から日本でも取り組まれ、その歴史は意外と長い。近年は東北地方での研究報告があり、実用化に私も少し期待していた。だが、試験研究において成果が報告されているが、農薬登録には至っていない。ハードルとなっているのは、「登録拡大に伴うコスト」と「さまざまな食品を通じた摂取量の総計」といわれている。

関連記事

powered by weblio