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齊藤義崇の令和の乾田直播レポート

多様化する直播品種


さらに少し詳しく見てみると、直播適性が高い品種だけに限っていないという点には驚きも感じている。短稈で倒れにくいだけでなく、「ゆみあずさ」「とよめき」「あきだわら」など、多収の業務用米品種も多い。さらに、関東以南では高温耐性に優れた品種も乾直で作付されていることがわかる。それぞれの地域が抱える課題に沿った品種から豊富に選べるのは、乾直人の生産努力なくしてはあり得ない。
俗に品種を作りこなすというけれど、乾直人は代を掻く移植と異なり、土づくりや作業機選びのプロフェッショナルなので、品種が良くなることをそのまま、生産を改善することにつなげられる人々である。乾直人の努力に報いつつ、日本の食料生産を強化するためにもより乾直に適した品種のデビューが命題であると、現場を離れてからも常に思っている。
日進月歩で新しい品種が発表されているが、品種改良は非常に時間のかかる作業を伴う。言い換えれば、方向性を間違うと期待している品種が農業現場に届かないことになってしまうのだ。個人的な意見になるが、すでに多くのお米は十分に美味しいと感じている。家でご飯を食べる機会が増えて改めて気づいたのは、実際にはぴかぴかの白米を食べる習慣の歴史が浅いことである。同時におこわやにぎり飯、丼もの、おはぎなどの甘味まで、温かい白飯以外の味わい方も知っている。白米の良食味を追求したり、お米を伝統や文化で語ったりするのも、ほどほどで良いのではないだろうか。食味や健康維持に役立つ品種も必要かもしれないが、冒頭に述べたように高効率な稲作を担保する直播適性の高い品種への期待は高まるばかりである。
また、稲ゲノムの解析が終わったいま、日本で承認されるかどうかはさておき、バイオテクノロジーを用いた品種改良もアプローチの一つになり得るだろうと思う。ジャポニカ米の需要は限られるので、特化した研究が進む可能性は高くないが、新たなコメ作りの成果が上がることを密かに楽しみに思っている。
最後に余談になるが、乾直圃場を見回りしていた頃に、周りの砂利道に水稲の芽が出ている光景に出会ったことがある(図4)。播種後に圃場から出た後も、播種機の車輪が接地して農道にまで播種してしまったのだろう。この芽を見ていると、人間があれこれ考え尽くしていることが小さく思えたものである。科学的な論拠を並べ挙げても、出るものは出るし、出ないものは出ない。種の力は人知を超えていて、科学では説明できない逞しさに驚かされることもあるのだから。

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