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新・農業経営者ルポ

キロ単価1万円のイチゴはなぜ生まれたのか

福岡県大川市の楽農ファームたけしたは40aのハウスで作るイチゴを産直で販売し、青果物と加工品で2020年度は年商8000万円を見込んでいる。系統出荷していた頃は1500万円がせいぜいだった。それが5倍以上になり、来年度には1億円を見込む。長い間深みにはまっていた赤字経営から脱却し、キロ単価1万円のイチゴを生み出すようになった秘密を探る。 文/窪田新之助、写真/楽農ファームたけした

産直農家として支持される三つの要因

筑後川の河口に浮かぶ三角州の大野島。楽農ファームたけしたがこの一角で生産するイチゴは年平均20tに及ぶ。半分は青果物として、残り半分はジャムやフローズン、ジェラートといった加工品にして企業や個人に直接販売している。
産直農家として楽農ファームたけしたが支持される要因は「完熟出荷」「期日指定配送」「安心保証制度」にある。完熟状態で収穫し、顧客の指定日に届くよう配送、味が気に入らなければ全額返金することを基本にしているのだ。
もちろん口で言うほど簡単ではない。クリスマスやバレンタインなどには注文が急増し、通常の体制では対応できなくなる。味にしても品質を保持することは難しい。イチゴの場合、クール便の車内では果実がつぶれないよう、荷物の最上段に載せられる。ただ、吹き出し口付近に置かれれば、果実が凍結してしまう。結果、クレームにつながるのはよくあることだ。
こうした課題をどのように克服し、集客と単価のアップにつなげているのか。その答えは武下いわく「伝達力と仕組み」にある。これを身に着けたいま、「2021年度は年商1億円を見込んでいる」と豪語する。ハウスでの作付面積は40aなので10a当たりの売り上げは2500万円。これを現状の経営耕地面積での一つの達成点ととらえている。
ただ、ここまでの道のりは決して平坦ではない。それを振り返ってもらう中、武下の口からたびたび出てきたのは「どん底」「地獄」といった言葉だった。

貧乏農家が嫌で故郷を離れる

大川市大野島ではかつてイ草の栽培が盛んだったが、いまはイチゴが主力になっている。武下が幼少の頃、実家が作っていたのはコメと麦。ただ、それだけでは生計を立てられず、父親は木工所に勤めた。武下が15歳の時に専業農家としてトマトづくりを始めるものの、「それでも貧乏に変わりなかったので、農家になるのは嫌でしたね」。
だから、地元の工業高校を卒業後に就職先として決めたのは三菱重工業(株)という大企業だった。設計士として全国の火力発電所を回りながら、定期点検と維持管理に従事した。
仕事と生活に疑問を抱くまで時間はかからなかった。「グループ全体で社員が2.5万人もいる大企業にあって自分は歯車でしかないのではないか」。23歳で社内結婚したものの、全国出張で家を空けることは少なくなかった。ある年の冬。出張先の山形県酒田市で家から漏れる明かりを見て、一家団欒が恋しくなった。
「農家が嫌で出てきたのに、いつしか家族が一緒にいられるその生活にあこがれを抱くようになっていましたね」

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