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特集

種苗法改正 賛成51%、反対24% 本誌アンケートで徹底解剖


実は農水省の担当者にインタビューした際にも「国民の関心が高まれば我々も在来種を守る法律づくりに取り組みやすいので、ぜひ声を上げてほしい」という話があった。だがそれはあくまでも、種苗法改正とは別の議論だ。
仮に種苗法改正を激しい反対運動で廃案に追い込んだところで、日本の在来種をめぐる現状は少しも良くならない。最初から因果関係がないのだから仕方ない。そのエネルギー、もう少し実りあることに使えないだろうか、と思う。

【守るよりも息吹を】

オーガニックベースの奥津爾(おくつちかし)氏さんのご厚意で、長崎県雲仙市の岩崎政利さんの畑を訪問したことがある。岩崎さんは40年ほど前に有機農業に転換したのち、自家採種に力を入れるようになり、今では年間50種類以上の野菜を種採りしているという。かつて途絶えかけていた「雲仙こぶ高菜」の復活プロジェクトを成功に導いた実績もある。長崎の在来種だけでなく、長年の農業と活動を通じて全国各地から岩崎さんのもとに辿り着いた種が大切に採り継がれ、少しずつ雲仙の地に馴染んでいった。土と種と、人の技術、その想いや生活が一体となって形作られていくさま、種と畑がひとつながりの生態系として季節をめぐっていく風景、そして野菜の花を我が子のように愛でる岩崎さんの姿を垣間見て、在来種が守られていくことの意味が、考えるまでもなく腹におちた。(念のため言い添えると、岩崎さんは交配種も栽培されており、また、農業である以上は経営感覚をもってバランスの良い栽培が必要とも言及されている)
そんな経験もあって、僕がこれまで企画してきたイベントでは「タネが危ない」といった種類の情報は極力介在させず、まずは在来種の多様性を五感を通じて発見し、楽しんでもらうことに専念した。結果的に個々人が「タネが危ない」という情報にたどり着くのは構わないが、恐怖や不安から在来種を知るのではなく、せめて原体験は幸せで豊かなものであってほしいと、願うような気持ちだった。
在来種が放つ(ときに暴れ馬のような)個性にひときわ目を輝かせる人々がいる。料理人だ。彼らのひらめきと、未知を面白がる力によって、野菜や穀物が新たな息吹を与えられて思いもよらない最高の一皿として供されるその瞬間は、政治やイデオロギーからも、在来種が消えつつあるという不安からさえも、自由だ。
「守る」ことは「生きる」こと。
保存ではなく、息吹を与えること。
そのために、講演会の壇上ではなく現場でコツコツ泥をかぶって動きつづけること。

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