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【土門「辛」聞】
コロナ・ウイルスに“銀弾”なし ワクチン供給の拙速を危惧する
- 土門剛
- 第193回 2020年09月23日
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米中露・超大国によるワクチン接種先陣争い
コロナ・ワクチンの認可と接種開始時期で、中国、米国、ロシアが激しく先陣争いしている。8月28日付け上海発の英BBCニュースが、中国優勢と伝えてきた。「ワクチン開発のフロントランナー、中国はすでに労働者へワクチン接種を始めている」。とても衝撃的な内容だ。
「今月初め、有名な中国の民間財閥企業トップは、コロナ・ワクチンが11月までに市場に出回る見込みだと部下に話した」
「先週(8月16日から22日)、開発中のワクチンの1つが国営メディアに掲載された。女性の研究スタッフが笑顔で、商品となったワクチンの小箱を手に持つ広告。12月までに販売を開始したいと考えているのはシノファーム社。それも、約140ドル(約1万5000円)の価格をつけている」
「中国の公衆衛生関係の政府高官は、先週末、中国が7月以来、エッセンシャル・ワーカーに対し、密かにワクチンをテストしていることを明らかにした」
「国家衛生委員会の鄭忠偉氏は国営テレビに、まだ中国政府によって承認されていない開発中のワクチンがある、政府の緊急権限で使用許可を出してもらい、国境やその他の地域の職員にそのワクチンを投与することができたと語った」
中国の出し抜きに焦ったのが、中国・習近平主席と張り合う米国・トランプ大統領だ。米食品医薬品局(FDA)による緊急使用許可(EUA)をちらつかせ、大統領選までにワクチンの早期接種を実現するよう部下に圧力をかけている。
米国らしいのは、圧力をかけられた部下が逆に開き直っていることだ。トランプ政権下でワクチン開発「ワープ・スピード作戦」主席顧問のモンセフ・スラウイ氏だ。英製薬大手グラクソ・スミスクラインでワクチン開発のトップだった。この5月、トランプ大統領に請われて主席顧問に就いた。そのスラウイ氏、ワシントンで発行の政治専門紙「THE HILL」(8月7日付け)に大統領を激しい口調で牽制している。
「大統領が選挙の日程に間に合わせるようワクチン承認の手続きを省いたりしたら、即座に辞めてやる」
ワクチン開発にはステップがあることを頭に入れていただきたい。まず動物実験、次いで人間を対象にした臨床試験。これで安全性と有効性を検証する。臨床試験は、フェーズ1(たいていごく少数の人が対象)、フェーズ2(数十人から数百人)、フェーズ3(数千人)へと、次第にワクチンを投与する人の数を増やしていく。
この場合のEUAは、臨床試験段階をスキップするものだ。これとは別に承認審査の順番飛ばしという優先承認審査(Fast Track)という制度もある。こちらは、すでに米ファイザー・独BioNTech、米モデルナ、英アストラゼネカなど開発が先行するワクチンに与えられている。
そこへロシア・プーチン大統領も参戦。8月11日、大統領が直々に「Sputnik V」を保健省が認可したと公表したが、数千人規模といわれるフェーズ3臨床試験をスキップしたものだった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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