記事閲覧
また、日本の農業は輸入ばかりで、輸出がない。「コメを守れ」と保護主義に走るばかりで、輸出という発想がなかった。古今東西、普通の産業は輸入もあれば輸出もあるという双方向貿易(産業内貿易)が普通である。農産物についても、世界各国では産業内貿易が普通に行なわれている。コメについても然り。しかるに、日本のコメ農業は輸入の一方通行であり、輸出がない。これは異常な姿であり、市場原理が浸透していけば必ず修正され、日本農業も双方向貿易が見られるだろうと考えた。
コメをはじめ、日本の農産物は品質が高いから、価格は少々高くても競争力はある、輸出できると考えたのである(現在の筆者の持論は100万t輸出である)。
実際にはどうなったか。コメの輸出は少しずつ増加している。2010年1,898t、15年7,640t、19年1万7,381tと増加した(HS1006,援助米は除く)。そのうち、一番多いのは香港向けであるが(19年5,436t)、あの「宿敵」大規模経営の米国向けも、16年872t、17年986t、18年1,282t、19年1,980tと急増している。
規模拡大と技術革新でコストダウンに成功し、米国向けコメ輸出を伸ばしている農家群がいる。茨城県の県産米輸出促進協議会は、16年は60tの集荷であったが、19年産は740tに拡大、米国に350t輸出した。16年当時、国内は60 kg当たり1万2,000円、米国向け価格は7,000円だった。乾田直播で規模拡大し、ハイブリッド米で14俵収穫、7,000円でも利益が出たのである(本誌17年3月号、拙稿参照)。あれから3年、米国向けは続いており、むしろ増加している訳だから、大規模経営の米国産米と競争できていることになる。
新しい動きもある。NYやパリで「おにぎり」の人気が出ている。「おしゃれな食べ物」というイメージがあるらしい。日本からコメを輸入し、現地でおにぎりを握っている。日本文化の輸出だ。「おにぎり」ブームは2013年、日本食がユネスコの無形文化遺産と認定された効果が大きいであろう。食べ方の進化である。「おにぎり」という日本文化の輸出を、コメ輸出論に追加したい。
一方、生(なま)のコメ「精米」ではなく、パックごはん(HS1904.90)の輸出も伸びている。19年には1,129t、うち米国向け449tもあった。ただし、コメ貿易は、世界的にまだまだ“精米”での輸出入が圧倒的に多い。
会員の方はここからログイン
叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)