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齊藤義崇の令和の乾田直播レポート

課題と問題は欲の産物である~現場に寄り添った研究開発と情報発信が足りない理由~


前回紹介した“砂利道に出芽した稲”の話には余談がある。圃場からの移動時に播種機が上がっていなかったのが原因だが、播種床もない悪条件でも黄色い芽が出たのだ。鑑識班の出番である。発芽状況を検証したところ、播種量に照らすと発芽率は約20%だった。条件を整えれば必ず芽が出ることを再認識し、試行錯誤の努力も報われるはずだと、勇気が湧いたのを覚えている。
雑草に悩まされたときには、軍師として参上した。図3のとおり、この圃場はとにかく雑草が多かった。登録が下りているもののまだ実用経験のなかった除草剤に適応があり、この薬剤を散布するしかないと覚悟を決めて、散布してもらった。その結果、圃場の雑草はきれいに退治でき、安定した苗立ち本数が揃って事なきを得た。限られた時間での決断だったので、農家の意向より、やりましょう!と決断を迫ったと記憶している。臨床試験で結果が出ていたとはいえ不安だったので、散布後は毎日朝夕と訪ねて圃場主と話し、現場検証を怠らなかった。草だらけよりも、リスクを背負っても臨床結果を信じて、現場で使う。この事例も、栽培マニュアル(指南書)に除草剤の上手な使い方として掲載し、後に続く実践者に役立つ情報となった。
最後に心理カウンセラーは、とにかく発芽してこない現象に直面する農家に寄り添う場面で求められる。育苗環境で苗箱に播いた種が発芽するのと違って、圃場に播いた種が発芽するかどうかは不安に苛まれるものである。ある圃場では水を入れずに待ったので、6月1日からの2週間、生きた心地がしなかった。まさしく犠牲者の農家と同じ気持ちのつもりだが、被害を被っているのは農家だけである。朝夕2回は必ず訪ね、さらに夜な夜な張り付いたり、農家さんに会わない時間に見に行ったり、発芽までを一生懸命見守った。そのときの出芽率は30%、苗立ち本数は90本/平方m。苗立ち本数(そこから推定される茎数・穂数・籾数・収穫晩限も)を確保できたのは、耕作を断念してほかの作物に転換するか判断する転作制度の申し込み最終日のことだった。乾直の芽が出ないことで、若い農業者は家族や近所のことが気になった。関係機関の動きも気になった。格好良く言えば、心の支えになれるよう尽力したわけだが、犠牲者への配慮といったほうがリアルかもしれない。
私自身の反省点としては、執筆活動も盛んに行なって普及には貢献してきたが、育種や栽培分野の研究者のレベルの論文が残せなかったことが少し悔やまれる。もう少し高校・大学と勉強しておけば、研究者にも負けない、その学術・研究の世界でも通用する論拠を整理できたかもしれないからである。次の世代を担う農業者や関係者の卵の皆さんには、新たな技術の現場検証も実践指導もこなし、さらには学術的に技術をまとめられる人材に育ってほしい。いままさに現場で起きていることを論文にまとめて発表する作業にも、農業界の進歩を担う価値があるからだ。同時に、農業者自身が実践も執筆活動もできるマルチさを獲得するのもイマドキかもしれない。乾直分野でも、課題は現場で次々と湧き起こるだろうし、その解決策に農業者・関係者の隔たりなく向き合える人を歓迎している。

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