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【知っておきたい 世界各国の産業用ヘンプ】
アイルランド 産官の連携で栽培拡大へ 協同組合が掲げる7つのヘンプの柱
- NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク 理事 赤星栄志
- 第35回 2020年10月23日
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20年続くヘンプ専門店と栽培復活に尽力した企業
近年のヘンプ復活の動きは、近隣諸国に比べてスローペースだった。隣国イギリスで93年にヘンプ栽培が復活したことを受けて、国立農業食品開発機関(Teagasc)では、97年からの3年間に複数の品種でヘンプの栽培試験と加工用途の研究を行なった。栽培成績は良好だったが、産業化のネックになったのは、収穫したヘンプの加工施設がないこと。何軒かの農家が試験的にヘンプ栽培を始めたものの、あまり大きく広がらなかった理由はそこにあった。
そうした状況でも国内の市場開拓に取り組んできたのが、ヘンプ・カンパニー・ダブリン社だ。99年にダブリンで衣料とアクセサリーを中心に、食品や化粧品などの日用品を扱ったヘンプ専門店を開店した(図2)。03年にダブリン1地区という市内中心地に移転してからも20年近く利益を上げてきた。世界的に見てもヘンプ専門店が長く同じ場所で経営を継続しているのは珍しい。ヘンプに多く含まれている機能性成分CBD(カンナビジオール)の商品もいち早く販売し、さまざまなブランドのCBD商品を取り扱っている。
一方で、ケルティク・ウインド社は国産ヘンプ100%にこだわり、2012年からアイルランド産ヘンプの復活に尽力してきた。社名は西ヨーロッパの先住民族ケルト人の名前に由来する。同社の取り組みは3軒の農家に計2.4ha分のヘンプ栽培を委託するところからスタートした。健康製品規制局(HPRA)に栽培申請書を提出し、保健省で審査された後に栽培免許を取得し、ほかのEU諸国と同じマリファナの主成分THC濃度が0.2%未満の品種を種子会社から取り寄せた。しかし、繊維採取用の品種だったため、成長したヘンプの背丈は4.2mにもなり、隣国イギリスにあるヘンプコア社の一次加工処理システムに入りきらず、栽培から販売までストップすることになった。
それでも諦めずに、種子とCBDの採取を目的とした背丈の低い品種に切り替えて、15年に20haの栽培委託を再開した。ヘンプは病害虫に弱い作物ではないが、無農薬で育てるポリシーを貫くために、灰色カビ病の対策として、ドローンにセンサーを搭載して生育と病害虫の管理を行なう革新的なシステムを開発している。昨年は国内の作付面積の約4割に相当する162haで作付けし(図3)、その収穫物でヘンプオイルとCBDを利用した栄養補助食品、スキンケア商品、ペットケア商品などを製造し、販売アイテムは計24商品に及ぶ。生産から最終製品の販売まですべてを網羅する垂直運営のサプライチェーンを築き、従業員30名の規模の会社に成長している。
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赤星栄志 アカホシヨシユキ
NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク
理事
1974(昭和49)年、滋賀県生まれ。日本大学農獣医学部卒。同大学院より博士(環境科学)取得。学生時代から環境・農業・NGOをキーワードに活動を始め、農業法人スタッフ、システムエンジニアを経て様々なバイオマス(生物資源)の研究開発事業に従事。現在、NPO法人ヘンプ製品普及協会理事、日本大学大学院総合科学研究所研究員など。主な著書に、『ヘンプ読本』(2006年 築地書館)、『大麻草解体新書』(2011年 明窓出版)など。 【WEBサイト:麻類作物研究センター】http://www.hemp-revo.net
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