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その額は幅広い。1万1000円から1万3500円だ。秋田は新潟と違って、生産者概算金はJA概算金を下回るのが通例。東北は概ねそのようだ。その差は、JAによる手数料・経費の徴収時期による。新潟は、生産者概算金を渡し、手数料・経費は年末の精算時に差し引くが、東北は概算金を渡す時に差し引いておく。それも全額ではないケースが一般的。残額は精算時に調整する。
例えば宮城のJA加美よつば(色麻町)のケース。全農みやぎは「ひとめぼれ」1万2600円のJA概算金を示してきた。これに対しJA加美よつばは、そこから600円を「留保金」という名目で差し引いた1万1800円を生産者概算金として組合員に示している。
さて秋田の生産者概算金に話を戻そう。目を引くのは最安のJAふるさと(横手市)だ。JA概算金とのギャップは1400円もある。実は、このJA、全農から米卸へ出荷先をシフトしてきた。取引相手は米卸大手のヤマタネ(東京)がメインだ。業務用はほぼ全量、全農を通さず販売する。
調査時点では、あきたこまちの生産者概算金は1万1000円だが、最終的には1000円の追加払いがあるらしい。昨年は追加払い同じく1000円を加え、1万3000円だった。最終価格ベースでの比較は、昨年産比7.7%減だ。全農を通さない分、手数料・経費を圧縮することができ、生産者へは近隣JAを上回る金額になる。
逆にJA概算金を上回ったのは、大潟村公社の1万3500円、県北地域のJA白神(能代市)とJAやまもと(三種町)の1万3000円。いずれも玄米だけなく白米の販売に力を入れている。
JA白神が全農を通さず直接販売するコメは、全体の7割程度。その分は、共同計算と呼ぶ全農出荷による手数料や経費の一部を省くことができる。そのメリットは19年産で1俵当たり872円もあった。その大半は生産者へ還元している。
全農あきたの集荷シェア。総合農協統計表によると、18年度は55.2%。10年前の09年度は64.4%。米価下落が続くと、全農の集荷シェアはさらに落ち込み、全農を頂点とした系統米流通がなお弱体化していくことは目に見えている。
損失飛ばしのカラクリ手数料・経費の水増し
最後にマーケットを完全無視して高額概算金で集荷する全農・JAの帳尻の合わせ方を披露しておく。結局、彼らは自分の腹を痛めずに、生産者に押しつけてしまうことだ。お得意の組合員への「損失飛ばし」である。たまたま入手した新潟・JA北魚沼が8月に作成した「令和2年産米 共同計算における流通経費項目別単価見通し」と題した資料(表3)が動かぬ証拠。それも年末の精算時点で手数料・経費の水増しで損失を押しつけると予告している。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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