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【戦後農政イデオロギーの温存が農業の弱点に】
昆 日本の農業規制における特徴を教えてください。
本間 生産資源の農地が物理的に限られていることに起因する規制が強いことですね。典型が「農地法」です。生産資源の農地を持つ権利を一定の人に限定する規制で、供給が限られる農地の所有者を限定しているためにレントが発生する余地が大きい。農地法があることで、結果的に土を耕さない人は生産資源の農地を持てず、このことが新規参入を妨げ、農業の発展を阻害する一方で、農家の既得権益を強固に守る機能を果たしています。
昆 日本人は世界の農業の現実を知らないので当然だと思っているかもしれませんが、農地法の規制は世界では非常識ですよね。
本間 農地は農業の生産資源で、農業者はあくまでプレイヤーです。私はこんな例え話をするんですが、東京ドームを所有できるのはそこでいつもプレーする巨人軍の選手だけという規制はおかしいでしょう。農地法の規制はそういうことです。
昆 日本で非常識な農地法ができたのはその成り立ちに起因しますか。
本間 そうです。戦後の農地解放によってそれまでの小作人が自作農となり、彼らの権利を守ることで大地主や封建制の復活を阻止するために制定された法律なんです。経済法なら当然の農地を経営資源として捉える視点が欠けていました。今や大きな小作人が小さな地主からたくさん農地を借りる時代になっているのですから、経済法の視点で農地法を見直す必要があるわけです。
次に、かつての食管法です。米麦等はすべて政府が管理し、供給の元締めとなる。そして、供給から流通を司る人が制限されることで利権が発生し、販売場所の米屋もすべて認可制になっていました。食管法は廃止されましたが、現在も食管法時代に近い形で供給と流通が制限されているのが生乳ですね。近年の規制改革で新たな制度に移行しましたが、これまでは基本的に生乳は指定団体に全量委託し、指定団体に納めない酪農家は加工原料乳の補給金をもらえなかった。これも日本の農業規制の特徴である供給を管理する規制の一種です。
抵抗勢力がどんな理屈をつけようと、実質的に新規参入が阻まれているものはすべて経済的規制と考えていいです。
昆 今も残っている経済的規制は、農地法をベースにした農地解放イデオロギーに縛られているもの、あるいは飢える者にくまなく配り、農家の安定生産を保障する食管法という、ある時期までは機能した制度が時代の変化に付いていけず、本来は改革されるべきはずがそのまま放置されてしまった。しかも、食管法は廃止されたにもかかわらず、減反政策として姿を変えて温存され、それに伴う各種補助金・交付金が提供され続けています。日本の農業規制は、農地解放イデオロギーと食管法時代の延長線上にあるといえるのではないでしょうか。
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