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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第22回 研究者の“脱サラ”ワイナリー 自己実現めざす働き方改革 ビーズニーズヴィンヤーズ(茨城県つくば市)
- 評論家 叶芳和
- 第42回 2020年11月27日
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また、「何よりも嬉しいのが、毎年その成果がワインになって瓶詰めされること」だという。
ワクワクする仕事に従事できることこそ、一番幸せなことであろう。それは多くの場合、探求心を背景に、クリエイティブ(創造的)な仕事に取り組んでいるとき感じるものだ。ワイン造りはそういう仕事なのであろう。「働き方改革」とは、時間短縮よりも、クリエイティブな仕事を増やすことではないだろうか。今村さんは脱サラによって、「“真の”働き方改革」を自ら達成したといえよう。
牛久シャトーは、日本の近代化現象として、ワインという新しい食品産業の成立を意味したのであるが、この数年の、現代のワイナリー立地は自己実現をめざす人たちの職業選択である。「働き方改革」とは何かを問うものであり、牛久シャトー時代とは意味が違う。日本社会の進化の現れである。
■もうひとつのPh.D.ワイナリー「Tsukuba Vineyard」
つくば市には、もうひとつ、Ph.D.保持者が新規参入したワイナリーがある。「Tsukuba Vineyard」である。代表の高橋学さんは国の研究機関である産業技術総合研究所活断層・火山研究部門の研究者であったが(主に岩石の空隙構造と物性の相関関係の解明)、定年(16年3月)を待って、ワイナリーの経営者に転じた(注:定年の2年前から、ブドウ栽培を始めている。なお、現在も再雇用で週3日、研究所へ)。
14年5月、つくば市栗原の借地にプティマンサン150本定植したのがスタートだ(ビーズニーズより早い)。つくばの気候風土に適したブドウ品種の選定や高品質なブドウのための土づくりをめざし、土壌診断の上に施肥設計し、科学的なデータに裏打ちされ、合理的な経験則を採用した栽培技術でブドウを作っている。これまでの職業(研究職)とは縁もゆかりも無い、そして土地も無い、資金も無い、経験も無い全くの素人からの農業挑戦である。
現在、約2haの土地に、プティマンサンやマスカット・ベーリーAなど12種類のブドウを栽培している。土壌は粘土に富んだ沖積土壌で、ビーズニーズの花崗岩土壌とは違い、水はけは良くない。土地は耕作放棄地の借地である(利用権設定、賃料無料)。
19年のブドウ収穫量は約2t、隣接する筑西市の「来福酒造」で委託醸造したが、20年夏、醸造施設が完成した。今年は予想収量4tであったが天候不順で2t、ワイン約2000本生産した。市民に親しまれるテーブルワインをめざし、価格は1500~2500円程度。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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