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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第22回 研究者の“脱サラ”ワイナリー 自己実現めざす働き方改革 ビーズニーズヴィンヤーズ(茨城県つくば市)
- 評論家 叶芳和
- 第42回 2020年11月27日
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土地はすべて、耕作放棄地を借り受け、自分で篠竹や雑木林を伐採し、整地した。借地料は10a当たり1万円である。周辺には借地予備軍がたくさんあり、規模拡大は難しくないようだ。
労働力は一人である。収穫はSNSで呼びかけると、1日当たり20人超、ボランティアが集まる(日当無し)。長野よりも容易に人が集まる。
ブドウの品種は、ネームバリューのある有名品種を選んで9品種植えている。白ワイン用はシャルドネ(これが多い)、セミヨン、ヴィオニエ、ヴィルディ、赤ワイン用はシラー(これが多い)、カベルネソーヴィニヨン、メルロー、タナ、プティヴェルドである。花崗岩土壌で、水はけも良いという利点を考えて品種を選んでいる。
■つくばを満喫できるワインを造りたい
今村さんのワインはプレミアムワインである。1本3500~4000円(税込み)である。茨城県内では一番高いワインのようだ。
つくばは市場として有利という。「人」を重視している。つくばは研究者の町であり、給料が高い。留学経験もあり、皆ワインを経験している。良いものであれば、4000円でも払ってくれる。5000円でも売れる。地元で高価なワインが売れる(実際、4分の1はつくば市内の酒屋で売っている)。東京の人も来やすい。長野はそうはいかない。つくばは、人に着目したとき市場として有利だという。
どういうワインをめざしているか聞いた。酸と糖のバランス、香りを重視したブドウ作りを心掛けている。ブドウは完熟に近づくと、糖は高まるが、酸は低下する。酸が抜けたブドウで醸造すると、味わいのないワインになる。収穫のタイミングがポイントだ。
長野県北信地方のようなテロワールの良い産地は、夜間の気温が低く、酸が落ちない。これに対し、つくばは夜の気温が高く、酸が抜ける。かといって、酸を残すため早く収穫すると、香りが無くなる。香りは足せないので、酸が少し抜けても収穫を遅らせ、酸不足は補酸する対応のようだ(補糖はしていない)。しいていえば、フレーバー(香り)に着目したアプローチだ。アチラ立てればコチラ立たずの状況で、最適解を求めている。微妙な収穫期の見極めが重要なのである。
ちなみに長野は補糖はしても補酸はしないで済む。温暖化が進んでいる関東は酸抜けするので、補酸が必要で、シュウ酸を足している(リンゴ酸、クエン酸を足す人もいる)。
品種の選択は、赤ワイン用はシラー品種を多く植えてあるが、シラーはオーストラリアのような温暖地でも酸抜けしないから、筑波の温暖な条件を考えての選択である。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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