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自分から営業することはなかったけれども、水田は年間数haの規模で増え続けた。今では1000枚に達する。
コンクリの畦に感じた心の壁
分散錯圃とはいえ、面積が増え、合筆も進むようになっているのではないか。こう素人考えで聞くと、そうではないという。
「田んぼの境界が土の畦じゃなくてコンクリでできていて、区画が細切れなまま」
土の畦だと、隣の地権者がだんだん畦を削ってきて、自分の田んぼが狭くなりかねない。実際そういうもめごとはあるので、そうならないように、地権者が互いにコンクリートで境界を固めてしまったのだ。
「他人との境界にすごくこだわりがある。SFアニメの『新世紀エヴァンゲリオン』は、主題の一つが『ATフィールド』という心の壁。そのATフィールドかのごとく、コンクリがきちっと田んぼの境にあって、非効率の極み」
ATフィールドは、作中に登場する架空のバリアで、正式には「Absolute Terror Field」。絶対恐怖領域とか絶対不可侵領域と呼ばれ、敵の攻撃を退けることができる。人間が持つ心の壁を象徴的に表す存在だ。コンクリートで固められた境界は、地権者同士の心の壁が具現化したものといえ、まさに地元農業におけるATフィールドだ。これを反面教師にしたことが、樫山の大きな推進力になっている。
「徳島県民は他人と組まない、俺が俺がっていう自己主張と自己顕示欲が強くて、それが一番現れているのが水田。東北や滋賀などに比べて一筆の面積はすごく小さい。他人との境にこだわりがあって、自分は一大経営者みたいに言っている人もいるけれど、面積は限られているし、所詮自分ところのしかやっていない。それでも、他人のことは蹴落としてでもやっていく感じがあって、そういうの格好悪いなと」
個々の農家が分断されたままでは、面白くないし、成長もない。
「地域を一つの農場として見たい。地域にいる農業者さんも一つの資源として、組めるところは組んで、競争力を付けていきたい」
こう心に決め、14年以降、農家を束ねる組織を次々と作ってきた。まず設立したのが(株)た組。中規模のコメ生産者5軒で設立した、コメの集荷販売会社だ。5軒で計200haのコメを共同販売することで、ロットを大きくし、価格交渉を有利にしようと考えた。設立の目的は、有利販売のみにとどまらない。
「僕以外は60代、70代。後継者がいるんだけれども、コメの生産にはあまり携わっていない。後継者が水田農業ができるようにという目的を持って集まり、生産から流通まで一貫してやろうというのが発案の理由だった」
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樫山直樹 カシヤマナオキ
(有)樫山農園
代表取締役
1978年、徳島県石井町生まれ。2000年、阿南工業高等専門学校卒業。アメリカで研修し、ワシントンのカレッジで学んだほか、1年半にわたりカリフォルニアの農場で労働者のマネジメントを経験。02年に帰国し、父・博章のトマト栽培を中心とする経営に加わる。05年から水田の受託事業を始め、水田面積は今では100haに。関連企業の(株)た組、ほのか(株)、あのか(株)の代表を兼ねる。
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