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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第23回 反逆のワイナリー 雨の多い宮崎でワイン造り (株)都農ワイン(宮崎県都農町)
- 評論家 叶芳和
- 第43回 2020年12月24日
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[1]反逆のワイナリー――ワイン産地は移動する
宮崎は日本有数の降水地帯である。また、九州の南に位置し、暑い。台風も来る。「雨の多い宮崎はブドウ栽培に適さない」と言われてきた。しかし、日向灘に臨む都農(つの)町に立地する(株)都農ワインは年産21万本のワインを生産し、数々のワインコンクールで受賞している。権威を認められているIWCや日本ワインコンクールでも銀賞を受賞している(IWC2018年銀賞、19年銀賞、日本ワインコンクール19年銀賞)。
確かに、ブドウ・ワイン産地は山梨や長野など、雨が少ない地方だ。ランキングでいうと、降水量が少ない1位は長野(年間降水量902mm)、2位岡山(1143mm)、3位山梨(1190mm)である。雨はブドウ栽培の大敵である。これに対し、もっとも雨が多いのは1位高知(3659mm)、2位鹿児島(2834mm)、3位宮崎(2732mm)である。都農の年間降水量は3338mm(アメダス2010~19年平均、最高値は12年4470mm)で、宮崎県ではえびの、深瀬(日南市)に次いで多い(表1の注参照)。(注1)
都農町のテロワール(気象や土壌等の自然環境)はブドウ栽培に適していないにもかかわらず、コンクール受賞ワインを造っている(表2参照)。都農ワインは「反逆のワイナリー」のように思える。
ワイン業界でかつて長らく支配した常識の一つに、「銘醸地は動かない」というのがある。農業界では「産地は移動する」が常識であるが、ワイン業界では産地は移動しないと言っていたのである(実際にはニューワールドの台頭、本場フランスから米国、チリ、オーストラリア等に産地が広がっているにもかかわらず)。
都農の実践は、ワインの産地神話への挑戦である。個人的には「技術は自然に代替する」という筆者の仮説「農業=先進国型産業論」の命題の実証でもある。
注1:市町村別の降水量ランキングを見ると(1981~2010年、30年間平均、気象観測所別)、1位屋久島4477mm、2位宮崎県えびの4393mm、3位高知県魚梁瀬(やなせ)4108mm‥‥9位宮崎県深瀬3371mm、10位高知県船戸3329mmである。都農は3338mmであるから全国10位に入りそうであるが、都農のデータは2010~19年の10年平均値である。近年の異常気象を反映して、近年10年平均は全国観測所の平年値(1981~2010年平均)を500mmくらい上回る傾向がある。この500mmを調整した平年値ベースで見ると都農は2838mmであり、全国ランキングは46位宮崎県青島2857mm、50位新潟県糸魚川2835mmであるから、都農は50位前後ということになる。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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