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解せないのは、人身事故を起こしたナイルワーク社の対応ぶりだ。事故について公表していないことだ。同じことは機体を扱った住商にも当てはまる。
出鼻をくじかれた「スマート農業」
この事故に衝撃を受けたのは、宮城県北部のJAみやぎ登米(登米市)だ。18年には住商と戦略的パートナーシップ協定を結んでいる。住商がドローンを使って展開するスマート農業のショーウインドウと位置づけたJAだ。情報通信技術(ICT)を使って「担い手農業者不足」や「農作業の省力化」を解決しようとする野心的な取り組みだった。
具体的には、JA出荷の担い手農家や農業法人などにドローンなどの機器を貸し出し、生産者自身が防除や追肥などの作業に従事してもらう。19年は住商からNile T-19を年間20機、20年は新鋭のNile T-20に切り替え、年間5機をリース契約した。20機から5機に縮小した理由は分からない。
住商の意気込みにはスゴイものがあった。JAみやぎ登米管内にドローンのバッテリーの保管・充電を行なう施設「スマート農業センター登米」を設立。19年は20機のNile T-19で約400haのカメムシ防除に取り組んだ。このほか水位センサーなどを使った水位管理についても実証にも取り組んでいた。
生産者によると、JAみやぎ登米は福島での墜落・人身事故の連絡を住商から受けたらしい。ちょうど8月に入って取り組んでいた水稲のカメムシ防除が最終盤にかかる頃。それが終われば9月に大豆に除草剤と殺虫剤の散布作業が待ち構えていた。JAみやぎ登米は、ドローンの操縦は職員に担当させた。
住商も大いに落胆したはずだ。スマート農業の出鼻がくじかれてしまったからだ。ドローンは単なる散布だけではない。「新しい精密農業」の実現が目的だった。18年8月20日付けニュース・リリースには、ナイルワークス社製ドローンを使った新しい精密農業の姿が描かれている。
「ドローンを作物上空30cmの至近距離を飛行させることで、薬剤の飛散量を抑え、作物の生育状態を1株毎にリアルタイム診断します。診断結果に基づき最適量の肥料・農薬を1株単位の精度で散布する新しい精密農業を実現します」
その精密農業。理解不能は、1株単位での診断とピンポイント散布。ドローンに搭載した近赤外線カメラが、稲に現れた色の異変を感知すると、その部分に農薬をピンポイントで散布する仕組みのようだ。住商による説明はかなり誇大広告。ナイルワークス最新鋭機Nile T-20のスペックをご覧いただきたい。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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