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「ドローンが搭載している散布機ポンプのオン・オフのタイミングと薬剤の吐出量は、飛行速度と薬剤の必要量に応じて自動調整しています」
この記述が正しいとしても、薬剤をピンポイントで散布することは難しい。作物上空30cmの至近距離から薬剤を吐出しても、その箇所に命中するとは限らない。それにカメムシやイモチは、必ずしもカメラでは捕らえきれないからだ。端的な例が、イモチが穂首についた場合だ。葉に隠れてしまって写らない。籾についた場合も同じことだ。
もっと大事なのは、色の異変を感知したときには、すでに手遅れに近いということだ。住商の担当者は、稲についての基本的な知識もなく、スマート農業、精密農業と踊っているような感じがしてならない。
ICTというツールを手にしても、結局、技術は基本を大切にするしかない。篤農家がよく口にする「作物は農家の足音を聞いて育つ」。この基本から逃れられないのだ。
Nile T-19は「参考価格550万円(本体500万円・保守50万円)」。JAみやぎ登米が、住商に払うドローンのリース料で農家が負担する額は1機50万円らしい。うち半額はJAの補助がつく。2年間の負担費用でDJI製ドローンMG-1(99万円、散布装置付き、バッテリー・充電器は別売り)を買える金額だ。ちなみにJA夢みなみが住商に払ったリース料金は1機150万円。この差は、いったい何だろうか。
「世界一安全」の金看板に傷がついた
この墜落人身事故は、ナイルワークスにとって二重の意味で大ショックだった。国内初のドローンによる人身事故だったこと。そして「世界一安全」とうたった看板に泥を塗ったこと。常々、柳下社長は「当社のドローンは完全自動飛行のため、ミスや墜落事故のリスクはほぼない」(17年11月29日付け産経新聞)と豪語していたが、市場投入のタイミングでも墜落事故が起きていた。
19年7月17日、JA全農とやまが主催した「農業用ドローン実演会」でのことだ。同県内の農協関係者、県庁関係者に加えて、商売敵のクボタ、ヤマハ発動機、中国・X-
AIRCRAFTの関係者も参加していた。自社開発ドローンを持たないクボタとヤマハは、DJI製に自社ブランドをつけて販売している。
このときの墜落は、「現場が一瞬、フリーズした」(農協関係者)という情報以外に何も伝わってこなかった。解せないのは、ナイルワークスの対応。大阪航空局に通報していなかったことだ。通報があれば、国交省は、メーカーと連絡しながら原因分析を試み、不具合や欠陥があれば、是正措置を講じる。その結果は、同省「無人航空機に係る事故トラブル等の一覧」のサイトで公表される。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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