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【農業は先進国型産業になった!】
日本ワイン比較優位産業論 現地ルポ 第24回 東京にもワイナリーがある都市型ワイナリーの存立形態
- 評論家 叶芳和
- 第44回 2021年01月28日
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東京ワイナリーのフラッグシップワインは「高尾ロゼ」である。原料のブドウ品種「高尾」は東京生まれ、東京育ち(生食用)である。巨峰の改良品種であり、東京都農業試験場が育種した。育成されたのは1960年代と早いが、栽培管理が難しく普及が遅れた。味は抜群に良いと評価されている。価格は1kg1600円(店頭)で、巨峰(同1000円)よりはるかに高い。人気のシャインマスカットに次ぐ高値を呼んでいる。
現在、高尾ブドウは都下の稲城市や日野市が本場だが、練馬区でも栽培されている。越後屋さんは「東京の農業を元気にしたい」という初心から、東京生まれ東京育ちのブドウでワインを造っている(商品名「高尾ロゼ」)。そういう意味では、「高尾ロゼ」は東京ワイナリーのシンボルと言えよう。
テイスティングしたが、日本ワインとしては格別の美味しさであった。この1、2年、越後屋さんは上手になったという話も、同業者から聞こえてくる。
「高尾」でワインを造っているのは全国で唯一、東京ワイナリーだけである。価格は1本3500円、同社商品のなかで一番高い(他は2100円)。
東京ワイナリーのワインは、すべて無濾過無清澄の“濁りワイン”である。コンクールには出せない。コンクールの審査基準は、ヨーロッパに倣って色や輝きなどがポイントになるから、濁りワインは賞をもらえない。
ワインのアルコール度数は11度である。もともとのブドウを活かしているので、糖度を無理して上げることはしていない。基本的には補糖しない(巨峰など生食用品種のとき、1~2度補糖することもある)。補酸はしない。
出荷先は、8割が直売とイベント(練馬区開催のマルシェ)での販売である。なかでも直売が多い。残りの2割は量販店向けである。なお、「量り売り」(100cc単位)もしている。
■街のコミュニティスペース
大泉学園町の住宅街にワイナリーがある。新聞の配達所を改築した小さな建物である。初期投資は初リリースまでの家賃等を含めて2000万~3000万円という。
ワイナリー内には、小ぢんまりしたカフェとショップがある。練馬の売りは「農」であり、ワインと地元の採れたて新鮮野菜とのマリアージュも楽しめる。お客さんはワインの醸造を見ながらワインを楽しんでいる。楽しいひと時を提供しており、街のコミュニティスペースになっているようだ。訪問客は土・日は10~30人、年間約4000人もいる。
練馬区が主催するイベントにも参加し、農が売りの練馬を盛り上げている。もちろん、マルシェにワインを出品し、売っている。売れる。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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