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山道弘敬の本質から目を逸らすな

「作保つ庫(R)」、野菜貯蔵庫の本質的解決法

有史以来、大きな病害の蔓延は人類の進む方向を大きく変えてきたという。1845年に欧州を襲ったジャガイモ疫病の蔓延は「大飢饉」と呼ばれて歴史に名を残す際立った一例であり、欧州からアメリカへの移民を強く促す動機になったとも言われている。今日の新型コロナウイルス蔓延も少なからず我々の進む方向に影響を与えるのは確実なようである。
2010年、当社はオランダのMooij Agro社と提携して日本の野菜貯蔵庫の設計施工という分野に踏み込んだ。それ以来、作物に求められる貯蔵庫とは何か、変えるべきものと変えてはいけないものは何か、それを区別する作業を当社は模索してきた。そしていま、社会環境の大変革の中、作保つ庫(R)の訴求が重要なことを世に問う必然性を強く感じている。
農業技術、特に貯蔵庫に関係する技術は、自動車や家電製品、建設機械製造などに代表される産業立国の日本では中心的な技術になりようがない。つまり、作物の保存にとって必要十分な技術とは何かという本質的な技術開発への問いかけよりも、他の産業分野で開発の進んでいた技術の中から作物の貯蔵に転用できる技術は何かというやり方が簡単で、今日まで主流であったと言っても過言ではない。これは、2000年以上もコメ中心の農業政策を推進してきた日本では止むを得ない事情であった。
このような借り物の技術から脱皮し、作物にとって求められる貯蔵方式は何かという視点に立って貯蔵技術を追求してきた結果、「作保つ庫(R)」というジャンルを打ち立てることの必然性に思い至り、それを世に提案していくことにした。
それでは作保つ庫(R)とは何か、それが目指すものが何か、タマネギの乾燥冷蔵貯蔵を例に説明したい。日本ではタマネギの乾燥は長らく天日干しを中心に行なわれてきた。淡路島での「ハサガケ」に代表されるように、秋に植えるタマネギは梅雨前の比較的乾燥した時期に集中的に収穫され、その後雨を避けつつ自然の風にさらして「高温下」で屋外貯蔵される。この状態で外気温が低下してタマネギの芽が動き始める10月ごろまで出荷を継続してきた。しかし、近年の生産者の高齢化や規模拡大のトレンドはタマネギの乾燥方式の変更を強く推進することになる。最初に取り入れられたのは、産業立国日本で提案されたのは当然とも言える除湿乾燥方式であった。ハサガケの代わりにプラスチックコンテナに入れた状態で冷蔵庫に収納して除湿乾燥したうえで冷蔵する。この方式は乾燥の多くはやはり天日干しを前提としており、その不足する部分を冷蔵庫内で除湿乾燥するというものである。風雨にさらされて気候に左右されるハサガケ小屋での高温貯蔵ではなく、除湿乾燥後の冷蔵貯蔵でより長い期間、消耗の少ない状態で品質を維持するという試みは的を射ていた。しかし、除湿乾燥機は高価であり、あくまでも天日乾燥の補助的な役割でしかないため、規模拡大には限界があった。そこで生まれてきたのが、作保つ庫(R)としてのコンセプトであり、完全庫内乾燥後に冷蔵貯蔵し、長期間高い品質を維持しようとする試みである。これには容器内に空気を通過させるためのアスパレーションシステム(R)やプレッシャーシステム(R)といった換気方式が不可欠である。さらには、除湿乾燥では乾燥能力が限られてしまうため、安価な外気を積極的に利用し、場合によっては高湿度の梅雨時期にも乾燥が進むようにガスやヒートポンプを使用する暖房装置を組み合わせて乾燥能力を向上させることになった。そして、作保つ庫(R)の中心概念である「作物間隙強制換気」でタマネギにとって最適な貯蔵条件が実現されることになる。つまり、0℃近くのタマネギの最適貯蔵温度が商業倉庫で初めて実現されることになった。

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