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新・農業経営者ルポ

「お前はどんな音を奏でたい?」ビートが効いた野菜と人を育てる

「自分の音」で勝負したい久松達央は、売り方も含めてインディーズ(独立型)で就農した。(株)久松農園の有機農業、多品目栽培、さらに直販という営農形態に憧れている新規就農者は後を絶たない。しかし、それは「自分の音」だと言えるのだろうか。合理的な農業経営を実践しており、複雑な事象の言語化も得意な久松だが、就農20年を過ぎた今も「美しい農業」や「自分の音」という抽象的なものを追求し続けている。 文・写真/紀平真理子
「僕は、山下達郎とか矢野顕子みたいな野菜を作りたいと思っているんですよ」
優しくシンプルでストレートに伝わるラブソングであるほど、ビート(注1、11ページ参照)が効いていないと心に響かない。
「善良な家庭に一見わからない過激なものを忍ばせてやったぜ、普通に食ってるぜ、の方が面白くない?」
この一見普通だがビートが効いた野菜、久松の言うところの「エロうま野菜」を一般家庭に届けるため、久松農園ではチームメンバーそれぞれが「自分の音」を日々模索している。久松は、それを引き出す手伝いをしながらビートが効いた人材を育成することに喜びを感じている。

チーム形成による心の変化

「チームで仕事をし始めてから、失敗は翌年に改善すればいいと思えるようになって、気持ちが楽になったね。もちろん、それは事業が来年も再来年も続いていくんだって思えるようになったから言えるのであって、そこに至るまでが大変だった」
その言葉通り、就農から約10年間は自分の能力に起因しない失敗まで一人で負ってしまい、「自分がダメな人間だから失敗した」と考える時代が続いた。
「その時代は地獄。コンプレックスとの戦いでした」
ところが、2012年に常時雇用を始め、「目標はチームで達成すれば良い、自分もチームの中で一つの役割を果たせばよい」と思えるようになってからは、「失敗」を「後悔」や「反省」とは捉えずに、淡々と課題の改善につなげていけるようになった。
久松農園では、常勤スタッフを雇用してから変化した点が多々ある。品目や作型が多いゆえ、年間で7000行にも及ぶ作業計画は2010年以降に作成した。それまでは、久松の頭の中だけに存在していたが、スタッフと共有するためにそれらを取り出すことで、客観的に検証、修正できるようになった。他者と共有することで不具合や議論は生じるが、それこそが改善点だという。
「チームが協力的であれば、『ビジネスモデル』なんかなくてもいろいろなことが大抵何とかなっちゃう」
例えば、久松農園では週休2日制を採用している。農業では無理だと言われることもあるが、とにかく土日は全員で休むと決めてしまえば、どうすれば達成できるかを考えるようになる。また、基本的に残業を認めていないため、スタッフは定時までに終わる工夫をしている。昨年は、作業量がピークになる夏場に交代で1週間ずつ休暇も取得できた。

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