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「ある人が不満を感じていた時に、他のスタッフがリスクを負って、僕に何かを言ってきてくれたこともある」
「美しい」を共有できるのはどんな人?
では、その「美しい」を共有できるのはどのような人なのだろうか。2012年から社員を雇用し、延べ9名、研修生を3名受け入れて、少しずつ「どういうタイプの人だと美しさを共有できるか」がわかってきた。
「数カ月前に入社した沼田くんが初めてやって来た日に、社員の野瀬と吉本が『多分あいつ入るね』って言ったのよ。細かいキー行動はあったけど、人が入れ替わってもチームが大切にしている醸成された空気を理解できるとか、大事にしているものが伝わると感じた初めての人だったね」
これは、久松が大切にしていることを構成するために必要な「目」が、チーム内でも共有されている証でもある。「チームの習熟と成長以外の何ものでもないと思えた瞬間だ」と笑顔を見せる。
スタッフが自分が奏でたい音を見つけるまで
「スタッフに対して、俺の色に染まれ!じゃなくて、お前は何色なんだ?って思う。音楽でいうと、お前はどんな音を奏でたいんだってことだね」
チームに入ってくるスタッフは、必ずしも農業経験や知識があるとは限らない。スタッフが農作業に慣れながら、自分の音を見つけていくことは容易ではない。久松は、農業は型にはまった誰もが表面的にやっている作業をなぞる形でしかスタートできないと考える。そのため、作業の操作はひたすらマニュアル的に教えている。ただし、同時に「トラクターは何のためにあるのか」「耕耘とはどのような作業なのか」という意味をどこの農家より細かく伝える。
そして、意味論や「そもそも土の表面を耕すのは善? 悪?」など、文脈の高い問いかけをぶつけながら、膨らみを持たせる人材育成を心がけている。
「脳を使わずに反復作業することは、習熟のためには必要だけど、僕はずっとそうなってしまってつまらない顔をしている人間は大嫌いなので、そうなったら全部壊す。意図的に雑談っぽくひたすら話して、型にはめないようにしているね。いろんなボールをぶつける。簡単に何かに絡め取られるなっていう。それは自分自身に向けられる言葉でもあるんだよね」
この久松スタイルにスタッフが揉まれていることを象徴する出来事があった。果菜類の追肥に悩んでいる中で、即効性の有機液肥を試したことがある。実際、効果てきめんだった。
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久松達央 ヒサマツタツオウ
(株)久松農園
代表
1970年、茨城県生まれ。94年、慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)を経て、98年に茨城県土浦市で脱サラ就農。年間100種類以上の野菜を有機栽培で育て、個人消費者や飲食店に直接販売する。補助金や大組織に頼らない「小さくて強い農業」を模索し、他農場の経営サポートや自治体と連携した人材育成も行なっている。著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)、『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)がある。
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