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特集

「ゲノム編集食品」として初めて届け出されたゲノム編集トマトのこれからを占う


その大きな違いを主に三つ挙げてみる。
まず一つ目は、ゲノム編集食品への表立った反対運動がほとんどないことだ。ごく一部の市民団体がサナテックシード社のビル前でデモをやったりしているが、ニュースにはなっていない。
二つ目は、GM作物は海外の巨大企業が開発・導入したのに対し、ゲノム編集食品は大学や公的機関の研究者が担い手になっていることだ。相手が外資系巨大企業だと「巨大企業の種子支配に反対しよう」と反対しやすいが、純粋な研究心に燃える日本の学者に向かって、「日本の研究者による研究開発に反対だ」とは言いにくい。
三つ目は、GM作物が農薬や労力の削減など生産者へのメリットしか見えなかったのに対し、ゲノム編集食品は消費者へのメリットが目に見えて分かることだ。
こうした消費者のメリットをうたう点はゲノム編集食品に共通する特徴である。すでに国内では、「毒のないジャガイモ」「肉厚のタイ」「高収量のイネ」「(養殖場の網に激突しにくい)おとなしい性格のマグロ」「(花粉症を防ぐ)花粉のないスギ」などが誕生している。国産のゲノム編集食品はいわば研究者の夢が詰まった日本の知的財産である。
農林水産省が多額の予算を投入し、世界に通用する国産ゲノム食品の普及を後押ししている点もGM作物と違って、支援材料となっている。
これらの強み、魅力を消費者に訴えていけば、GM作物のような悪夢は避けられるはずだと私は見ている。

【分かりやすい伝え方も必要】

とはいえ、ゲノム編集とはどういうものかを分かりやすく伝えていくことも社会的受容には必須である。ゲノムとは、生命の設計図ともいえる全遺伝情報のことだ。ゲノム編集は、読んで字のごとく、生物が持っている遺伝子を効率よく編集(書き換える)する技術だ。
2020年、ノーベル化学賞を受賞した米国とフランスの2人の女性科学者が2012年に発表した「クリスパーキャス9」という手法がゲノム編集技術の代表的な存在だ。ガイド役の分子(クリスパー)が狙った遺伝子のところへ案内し、キャス9(タンパク質)というハサミ酵素がその狙った部分を切断して、動植物に新たな性質(ゲノム編集トマトの場合はガンマ-アミノ酪酸を増やすこと)をもたらすという技術だ。扱いやすく、世界で一気に普及した。ゲノム編集トマトもこの技術で誕生した。

【安全性の審査と表示の義務は不要】

ゲノム編集食品の最大の特徴は、外部から遺伝子を組み入れていないことだ。ゲノム編集トマトでいえば、もともとトマト自身が持っている遺伝子の組み合わせを変えただけである。

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