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スマート・テロワールの実践者たち

天地人の一致が生んだ耕畜連携の鏡

岩手県花巻市は宮沢賢治ゆかりの地だ。彼の童話「グスコーブドリの伝記」では、冷害で米の不作に苦しむ人たちを救うために、若い主人公が命を捧げる。しかし、当地にとってそれほどに大事なものだった水田が、今は余りに余る時代となってしまった。
余剰水田を活用し、国産自給率が0%に近い家畜飼料用のトウモロコシを栽培する――素人が聞けば理想的ながら、経済的に成り立たせるのは至難な取り組みが、その花巻市で拡大されつつある。実現のカギは、チャレンジ精神に満ちた稲作・畑作農家と、真に国産の銘柄豚確立を目指す畜産家が、しっかりと組んだタッグだった。
今号は、天上の宮沢賢治も喝采を送っているに違いない、このビジネスモデル革新に注目しよう。

シナジーの探求から始まった飼料用トウモロコシ栽培

花巻市の西半分は、奥羽山脈の山麓から北上川へ、西から東にゆるく傾斜する扇状地上の美田地帯だ。その南西部で92haの農地を経営する盛川周祐氏(盛川農場代表)。1951年生まれで、1974年から農業を始め、家族での営農を続ける。持ち前の起業家精神と探求心で、田植えをしない直播栽培の稲作や、小麦、大豆の輪作を手掛けてきたが、震災の年の2013年から、飼料用の子実トウモロコシにも取り組み始めた。作付面積0.7ha、出荷量4tでスタートし、2020年には11ha、76tまで生産拡大している。
「先に販路があったのではなく、まずは作ってみたかったのです」と盛川代表は語る。米、小麦、大豆と来た次に、単価の高い野菜ではなく、高くは売れない飼料用トウモロコシに挑戦したのは、生産者として輪作のシナジー(相乗効果)を追求するためだった。4つの作物の作業サイクルのずれを利用して、人手と農業機械を繰り回し、生産コストを下げる。トウモロコシ栽培には地味を回復させる効果があるので、それを活かして麦や大豆の増収を図る。農地の3分の1で続けている水稲栽培も、輪作に組み込まれており、これも地味の回復に貢献する仕組みだ。

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