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これに対し、飼料作物として政府が推奨し、多額の補助金を突っ込んでいるのは、飼料用米だ。世界的にトウモロコシが当たり前の家畜飼料の世界に米を持ち込もうというのは、まるでグスコーブドリの執念が農政官僚に乗り移っているかのようだが、トウモロコシよりもどうしても高価格になる。飼料としての品質面ではどうなのだろう。
盛川農場のトウモロコシを、国産ブランド豚「白金豚」の飼料に使っている、同じ花巻市内の畜産家・高橋誠氏(高源精麦株式会社社長)は語る。
「トウモロコシの方が、食べさせるのに手間がかからない。それに米で育てると、どうしても肉の味が変化してしまいます」
もちもちした食感で人気になりつつある米粉パンにしても、確かに麦の香りはない。麦芽100%のビールと、麦以外を使う発泡酒では、味は別物だ。わざわざ高い飼料用米を買うくらいなら、安くておいしい豚の育つ輸入トウモロコシを使うのもうなずける。
高橋社長は、盛川代表が2013年に試作した飼料用トウモロコシを引き受け、以降も年々増える生産を全量買取してきた。農場側からすれば、米・麦・大豆よりも低単価のトウモロコシも、使う側からすれば輸入品よりは当然に高価である。盛川代表にはシナジーによるコストダウンの追求というテーマがあったが、高橋社長にはどんな計算、どんな思いがあって、盛川農場とタッグを組んだのだろうか?
進取の精神で6次産業化を進めてきた若き畜産家
高橋氏が社長を務める高源精麦は、名前の通り精麦業として明治末期に創業し、飼料販売を手掛けたのち、1964年から養豚に乗り出した。老舗の後を継いだ氏は、2009年から銘柄豚「白金豚(はっきんとん)プラチナポーク」の生産販売を開始した。ネーミングは、宮沢賢治が豚を、優れた触媒作用を持つ白金にたとえたことにちなんでいる。飼料内の窒素などを体内で肉に組成する豚を、賢治は自然の触媒に見立て、そこに貴金属にも負けない尊さを感じたのだ。同社は現在では、年間出荷1.1万頭のほぼ全量を自社で生産管理し、その85%を白金豚として販売している。加工品も自社生産し、豚がメインの飲食店も経営して年商5億円余りの「6次産業化」の先端を走る企業だ。
その先進的な経営姿勢は、meat.co.jp という自社ドメインに象徴されている。これは数多の国内大企業や大農場に先んじてIT化に取り組んだ証拠だ。若々しい高橋社長の進取の精神は、年代は上だが同じくチャレンジ精神の塊である盛川代表と通じ合うものがある。
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藻谷浩介 モタニコウスケ
株式会社日本総合研究所
調査部 主席研究員
山口県生まれの56歳。㈱日本総合研究所主席研究員、一般社団法人スマート・テロワール協会理事。平成合併前の全3,200市町村、海外114カ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。2000年頃から精力的に、地域振興や人口成熟問題に関する研究・著作・講演を行なっている。著書に『デフレの正体』『里山資本主義 』(共にKADOKAWA)、『世界まちかど地政学Next』(文藝春秋)など。共著に『進化する里山資本主義 』(Japan Times)、『東京脱出論 』(ブックマン社)。日本農業新聞のコラム「論点」に、2014年以来、年2回寄稿中。
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