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これはまだ乱売合戦の前哨戦だ。本番は、3月。本誌が読者の手元に届く頃は、春の到来で気温が上昇、それに伴い常温倉庫から米が出ていくときだ。スーパー店頭で5kg税込み1500円を切るセールが始まってもおかしくない状況。ホクレンにとって、いずれは赤字覚悟の在庫処理が待っている。
前月号特集で、農協組織が抱える大量の在庫をめぐり、JA全中が政府に緊急買い上げを要請している様子をレポートした。主役は、ダントツの過剰在庫を抱える北海道農協組織に違いないと踏んだ。その事実をあぶり出してみよう。
まずは当事者の取材から始めた。在庫を抱えているのはホクレンだが、オール北海道農協を代表してJA北海道中央会へ次の質問状を放ってみた。2月22日のことだった。
(1)昨年秋以降、道選出の国会議員を通じて、政府に対し、在庫米の政府買い上げの要請をしたことがありますか。 (2)もし、要請したということでしたら、その根拠となる理由を教えて下さい。
(3)令和2年産は、作況指数106が示すように豊作でした。にもかかわらず「ななつぼし」は前年産より300円安い1万3200円、「ゆめぴりか」は前年産と同額の1万4700円と強気の概算金を示されました。米のマンスリーレポートが示すように大量の道産米が売れ残っています。一部の量販店では、「ななつぼし」や「ゆめぴりか」の値下げ販売が起きています。これは相場より高めの概算金を示したことが原因したものではないでしょうか。
ホクレンと北海道中央会からの回答
2月22日(月)夕方、ホクレン主食課から「質問状への回答は、休み明け(23日は天皇誕生日)にさせていただきたい」と電話連絡が入った。ビジネス・ライクで丁寧な対応には恐れ入った。そして約束通り、24日午前に回答が届いた。
ホクレンは、質問(3)のみ回答、残る質問はJA北海道中央会名で返答させると伝えてきた。政策要請は、同中央会の役割となっているからだ。そして質問(3)の回答は次の通り。
「概算金については、令和2年8月27日に決定いたしました。概算金決定時には、まだ北海道米はじめ主要産地の新米は流通が始まっておらず、作況も北海道『やや良』全国的には平年作が見込まれる状況の中、生産者の生産意欲を損なわない最大限の概算金水準とした経過にあります。(弊会の北海道出荷開始は9月16日)
概算金決定時には新潟県以外の主産県は概算金を決定しておらず、結果的として北海道の概算金は相対的に高い水準になったと認識しております。
令和2年産米の販売状況としては、(2021年)1月末現在の前年対比で『ゆめぴりか』108%、『ななつぼし』85%であり、『ゆめぴりか』は販売が好調に推移しております。
『ななつぼし』は概算金水準の影響もあり、結果として競合銘柄に販売で遅れをとっており、巻き返しを図るために、米穀卸と連携して生協・量販店にて個別にクローズドキャンペーンや増量セールを仕掛けるなどして特売企画への採用を推進しております」
概算金が高かったことを正直に認めたことは評価できる。それはそれとして、ホクレンともあろう組織が、なぜそのような概算金を出してきたのか。疑問は残る。
主要産地の20年産概算金は、8月29日にホクレンが公表する前に北陸4県と関東の一部産地の公表があった。ホクレンにとって最大のライバルである全農にいがたは、同16日に標準的な「コシヒカリ一般」で1万4000円(玄米60 kg)と、前年産より6%も下げた概算金を公表していた。しかもコロナによる消費停滞が色濃くなる中でのことだ。 2月25日、首都圏のスーパーで偶然見かけた「ななつぼし」(10 kg3974円)と「新潟コシヒカリ一般」(同4293円)の小売価格。扱いは米卸最大手の神明(神戸市)だ。その概算金(20年出回り当初1万3200円)から考えると、微妙なところで「ななつぼし」がやや割高という印象を受けてしまう。
相手の仕入れ値を見誤ったということになろうか。その差が在庫に跳ね返る。主食用収穫量で新潟より約5%少ない北海道が、在庫では逆に27%も多いという状況になっているのだ。
一方のJA北海道中央会からは、なしのつぶてだった。原稿の締切日が近づいてきたので、26日午前、電話で催促すると、なぜか「24日付け」と記載された回答書がファックスで送られてきた。当方のファックスには受信記録はない。回答書はその日付で作成していたようだが、何かのミスで送り忘れたか、すっとぼけて送信をやめたかのいずれかだ。ホクレンの対応とは天地の差がある。
肝心の回答は、予想通り、木で鼻をくくったような内容だった。
(1)への回答
「令和2年度において要請は実施しました。我々の主張は、コロナ等の影響で急激に悪化した需給環境を正常化するために、手法は問わず緊急的な市場隔離が必要であると提案しましたが、北海道米を政府に買入してほしいと要請した経過はございません。なお、要請などを実施した時には、北海道米として過剰在庫は保有してはいませんでした」
(2)への回答
「現行の米政策において、過去2年間はたまたま不作等により米の過剰感はありませんでしたが、令和2年産においては、全国的な過剰作付けによって供給過剰が懸念されていたため、4月の段階からその問題点を農水省やJA全中等にお伝えしていました。加えて、コロナ影響による急激な需要減少が想定されましたので、全国における需給環境を通常な状態に保ち、生産者が米作りに夢と希望と意欲をもって努力できるよう、一つの対策として提案を行った経緯にあります」
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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