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新・農業経営者ルポ

新品種をブドウ農家に捧げたい

ブドウ栽培とワイン醸造のスペシャリストで、開発したブドウ品種は100近い。全国のワイナリーの立ち上げに多数関わっているうえ、高温多雨でも栽培できる品種を自らの手で生み出し、栽培を広めた。国内外で技術指導に当たり、その功績が認められ、複数の大学から名誉農学博士の称号が贈られている。こんな八面六臂の活躍をするのが、育種家で志村葡萄研究所所長の志村富男だ。2haの農地で、ブドウとモモの商業栽培と育種を両立している。文・写真/山口亮子、写真提供/志村葡萄研究所

魅せられて「一生ブドウの生活」

「ワインと生食用のブドウを必要に応じて作ってきました。それがいまや世の中の役に立って、特に生食用の品種は世界に発信されて、大きな話題性を呼んでいるということはありがたいですね。品種を作るというのは非常に地道な仕事で、一生に一本出ればいいとも言われているので」
山梨県笛吹市のブドウ畑に囲まれた志村葡萄研究所で、志村富男は研究所のパンフレットを開き、これまでの歩みを振り返った。パンフレットには、自ら育種した生食用の15品種の写真と特性が一覧になって載っている。作出した品種のうち、世の中に送り出したのは生食用が約20、ワイン用が約10で計30ほどになる。
志村の自宅でもある研究所は、甲府盆地の南東の緩やかな斜面に位置する。今はすっかり果樹一色の地域だが、志村の幼いころは稲作と養蚕が盛んだった。その後、ブドウ栽培が中心になり、志村の実家でも栽培を始める。志村は「ブドウに魅せられて」1968年、キッコーマンのワインブランドを展開するマンズワイン(株)に入社。ブドウに生涯を捧げてきた。
「特にブドウの品種には魅力があって、私はそれに取りつかれて、一生ブドウの生活をやっているんです。例えば同じ果樹でもモモやリンゴの特徴は、基本的には赤くて丸いということになります。色の違うものもありますが、そこまで大きくは変わらないわけですね。その点、ブドウっていうのは色も形もさまざまで、世界に約8000種もあると言われているんですよ」
志村のブドウにかける思いは、言葉の端々から感じられるだけではない。研究所の外にはブドウの石彫が置かれ、玄関を入ってすぐ、壁にかかっているブドウの木彫りの装飾が目に飛び込んできた。インタビュー中も、欄間を見上げればブドウの浮彫が施されており、窓に目を向けると窓際に色紙に描かれたブドウの絵が置かれている。もちろん、窓の外に広がるのはブドウ園だ。視線を移すたび、ブドウにぶつかる。

十年余りで人気品種を次々

特筆すべきは、志村が世の中に送り出した30品種の大半が、研究所設立後のここ十数年に集中していることだ。マンズワインでは育種やウイルス、栽培方法の研究などを手がけており、醸造用ブドウのいくつかは社員時代に開発したものだが、55歳からの活躍ぶりには目を見張る。

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