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新・農業経営者ルポ

新品種をブドウ農家に捧げたい


「品種を作って、種苗会社や自前でたくさん苗を作って儲けようという気持ちはないんですね。ブドウ栽培をやる方々が、こういう品種を作ることによってまた、励みになり、生きる喜びというか、楽しみを長く感じられるようになってほしい。そのために、私は育種をやっています」
富士の輝といった花形品種については、海外流出のリスクもあるという指導を受け、品種登録を出願している。ただ、全品種を登録するつもりはない。登録の手続き費用が高いうえ、もともとの種苗法も、改正種苗法も、登録を取ること自体が価値を生み出す法体系にはなっていないと感じるからだ。

長男が後継者として栽培・普及へ

志村は今後、育種に注力していくつもりだ。というのも、長男の晃生が2019年に跡を継ぐと決めて就農したからだ。志村の開発した品種を栽培・販売するため、「Grape Shopココロ」をオープンした。果樹園を併設し、ブドウやモモなどを販売するのに加え、パフェやケーキなどのスイーツやバーベキューなども楽しめる。昨年は、コロナにもかかわらず、大繁盛だった。
「山梨県内は観光ブドウ園や売店がいっぱいあって、シャインマスカットやピオーネ、巨峰を中心に売っています。でも、消費者はやっぱりよく情報を見ているんですね。新しいものを求めて、訪れてくれるんですよ」
価格でいえば、志村の開発した品種は従来の品種に比べて高くなるものの、価格だけではない消費のニーズにはまったと感じている。開発した品種の栽培と普及の仕事は、晃生に譲るつもりだ。
「技術的な問題もありますから、手は貸しますけど、あまり口は出さないようにして、息子のやりたいようにやれという方針でやっているんです」
志村自身は今後、育種に集中するつもりだ。醸造用は、より着色が良好で、収量に優れた品種を作出中で、近々世に送り出すつもりだ。生食用は、これまで開発した品種同士を掛け合わせ、さらなるレベルアップを目指す。
「最後の仕事として、できれば、一粒がテニスボールくらいのものを作りたい。もっとすごいやつを作りますから、今度会う時があったら、新しい品種を紹介してください」
こう言って、いたずらっぽく笑ってみせた。 (敬称略)

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