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松川農園は6次産業化している。1ha当たり15t収穫し、梅酒用など青梅での販売、1次加工品(塩分20%)を梅干し加工業者に販売するほか、自らしそ梅など最終製品まで加工しスーパーやネットで売っている。価格は梅干し用1次加工品が1kg1000円、最終製品はA級品3000円、B級品2500円、C級品2000円。売上高3700万円である。
注2:みなべ町には和歌山県果樹試験場うめ研究所があり、梅の品種改良等を担当している。筆者の仮説は「技術は自然条件に代替する」(農業=先進国型産業論)である。県の試験場は自家受粉できる品種を開発。ニホンミツバチの介在を不要、つまり世界農業遺産の“認定要件”から離れ、“脱・世界遺産条件”を目指して仕事していることになる。しかし、まだ、近代技術は皮の薄い柔らかな南高梅を超えることはできていない。今のところ、世界遺産は技術より強いといえよう。
収穫のネット革命
梅農家にとって一番の繁忙期は収穫である。6月初めから収穫期を迎えるが、梅酒用は6月10日、梅ジュース用は15日、梅干し用(完熟)は20日以降に収穫する。昔は完熟しないで収穫していたが、今は梅干し用は完熟ものを使うので、収穫が大変だ。地面に落下すると汚れたり、あるいは傷がつき商品価値が低下するが、30年くらい前に、ネット革命が起きた。ネットを地面の上に敷き、自然落下しても傷がつかない工夫だ。また、斜面にネットを張ることで落ちた梅が一カ所に集まるので拾い集めるのに便利だ。この新しい農法で収穫の効率が上がり、同時に品質が向上した。
梅園はどこに行っても、梅の木の枝にブルーのネットがかかっている。天女の羽衣のような風景だ。当初は漁師から古い漁網をもらって、草の生えた地面に漁網を敷いて自然落下を待っていたようだ。今は風除け用のネットを活用。6月になれば、このネットを畑(草生栽培)に敷いて自然落下を待つ。草がクッション代わりになっている。
ネット収穫は大変な作業改革になった。ネットを利用する現在、5人で、1.5haを2時間で拾える。ネットがなければ、5人で1日以上かかる。梅の管理は高齢者でもできるが、収穫は担い手不足である。このネット収穫への転換が、農家の離農を回避しているといって過言ではない。梅農業にとって大きなイノベーションである。
しかし、それでも収穫は大変なようだ。完熟梅の収穫は15日かかる。毎日、拾い集める仕事である。ちなみに、梅酒用の青梅は手取りである。脚立を使ったり、木に登っての収穫であり、これも大変なようだ。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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