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小布施牧場の掲げる経営理念は明快だ。「社員が幸せに働く楽農経営で、美しい里山を増やします」。
その下には5つの特徴がある。小規模、放牧型、地域内循環型、高品質の六次産業、そして教育と普及だ。
まずは「小規模」。飼育しているのは10数頭のジャージー種だ。子牛を森の中で育てていることは述べたが、成牛についても広い牛舎の中で、ゆったりとしたストレスフリーの飼育を行っている。最初は8頭から始め、手当の資金は400万円で済んだ。今年度からは多角化として、和牛の繁殖にも挑戦するという。
ついで「放牧型」。美しい田園景観の形成も意識しつつ、信濃川に近い遊休農地を放牧地としている。稲わらやトウモロコシ等についても、地域内での飼料自給率100%を目指す。しかし、花巻市の盛川農場のようなトウモロコシ生産農家は近隣にはなく、頭数も少ないので、トウモロコシは当面、自前での作付けにとどまっているそうだ。
「地域内循環型」として手がけるのは、糞尿の近隣農家への還元だ。それ自体は酪農家の当たり前だが、善玉菌を導入して無臭化し、肥料としての性能や使い勝手を改善しているところに特徴がある。この善玉菌の活用が、近隣から苦情の出ない牧場経営にもつながっている。
そして「高品質の六次産業」。牛乳はアイスクリームなどのジェラート、プリン、そしてチーズに自社で加工し、販売している。店舗の建設と、イタリアから輸入したジェラート製造機器には、5000万円以上と初期投資の大半を投じた。農家でありながら、最初から加工と販売に投資を集中することで、売り上げを確保する戦略を取ったわけだ。
3年後の2020年には、1000万円の追加投資でチーズの生産販売を開始。プリンやモッツァレラチーズドッグも名物となった。「世界一の評価を受けます」という、志が高い目標を掲げつつ、「味わいのまち小布施の魅力を高めることで地域に貢献します」という、地域目線の方針も持っている。
近隣商圏の開拓と同志の縁でコロナを乗り切る
小布施牧場の売り上げは、コロナ禍の2020年に、3100万円を超えた。兄弟ともに幼い子どもたちが生まれ、それぞれの妻が育児に専念する中で従業員の女性も1名雇用したが、2家族+1名の生活はじゅうぶんに成り立つレベルとなっている。
小布施町は観光地として有名だが、その集客はコロナ禍で打撃を受けた。しかし近隣商圏にも、長野市を中心に60万人以上の人口があり、そこに16万枚のチラシを打つことで、広域の住民の認知を得ることができた。
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藻谷浩介 モタニコウスケ
山口県生まれの56歳。(株)日本総合研究所主席研究員、一般社団法人スマート・テロワール協会理事。平成合併前の全3,200市町村、海外114ヶ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。2000年頃から精力的に、地域振興や人口成熟問題に関する研究・著作・講演を行っている。著書に『デフレの正体』、『里山資本主義』 (共にKADOKAWA)、『世界まちかど地政学Next』(文藝春秋)など。近著(共著)に 『進化する里山資本主義』 (Japan Times)、『東京脱出論』 (ブックマン社)。日本農業新聞のコラム「論点」に、2014年以来、年2回寄稿中。
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