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新・農業経営者ルポ

日本一のイチゴを目指す宮崎のネクストファーマー。

経営者とは、かっこいいものではない。筆者自身の経験で恐縮だが、ずいぶん昔にオランダの飾り窓を歩いたとき、盛んに「シャチョウさん」と呼びかけられ、なんとなく恥ずかしさがあった。今では、東京の歌舞伎町を歩くと、「老板(らおぱん=社長)」と呼びかけられる。 農業技術者として、中国の雲南省でさまざまな方に出会った。お金儲けの神様である故・邱永漢さんと食事したとき、「世界には二つの人間がある。給料を払う人と給料をもらう人だ」と言われた。確かに、働く人は給料日が来るのを遅く感じ、経営者は「給料日はどうしてこんなに早く来るのだろう」と思う。同じ1カ月の時間感覚が違うのだ。会社では、経営者は1人で、働く人はそれよりも多い。考えてみれば、孤独な仕事である。会社が不調でも、暗い顔をしているわけにはいかない。そんな経営者の「生き様」をリアルに伝えたい。その生き様とは、「自分の過ごしてきた無様で、不器用な生き方」なのである。農業経営者は、マニュアルでできるわけがない。いきもの相手と人間相手の両方と格闘しながら取り組んでいくわけで、そこにあるのは、経営者としてのパーソナリティであり、経営理論で語れるものではないのだ。 団塊世代の集団離農が叫ばれている。未だに最前線で戦っている人もいるが、今回は、宮崎空港近くでイチゴを栽培しているネクストファーマーの長友一平(34)を取り上げたい。 文・写真/土下信人
宮崎県の農作物は、県外移出が基本で、マンゴーとキンカン、キュウリなどが知られている。年間平均気温は約17℃(気象庁気象観測統計)で、1年を通じて温暖な気候である。平均気温(3位)、日照時間(3位)、快晴日数(2位、いずれも1981~2010年平年値)が全国トップクラスで、農業には非常に有利である。
イチゴの生産者も多いが、福岡、熊本、長崎、佐賀に比べ宮崎県の知名度は低い。福岡は、「あまおう」でイチゴの名声を得ている。そんな中、長友は「日本一のイチゴ生産農家になる」と意気軒昂なのだった。
宮崎ブーゲンビリア空港から車で5分くらいのところに、彼が営む農園と「ひなたマルシェ喫茶店」があった。建物は、スペイン風でお洒落な雰囲気。到着時には、イチゴを買いに来た人たちの車で駐車場は一杯で、売り場には行列ができていた。
さっそく、ひなたマルシェ喫茶店の隣の事務所で、長友に会った。
ちょっと華奢な感じで、今時のイケメン風。農家には見えないシティボーイである。好感の持てる青年だった。挨拶して着席したら、イチゴとコーヒーが出てきた。
「話す前に、とにかく食べてください」
そう言われて食べてみると、イチゴは香りが良く、甘く、嫌味がなく美味しい。そばにある糖度計で測ってみたら、糖度は20度を超えていた。あまりイチゴを食べない筆者でも、その爽やかな甘みに感心した。

福岡空港の通関士。

イチゴ農家になる前は、福岡空港で通関士をしていた。福岡の専門学校に通い、世界に羽ばたきたいと思って通関士として働いたのだという。その空港には働く人が2万人近くおり、初めはやりがいがあって積極的に仕事に打ち込んでいた。ところが、5年間働いて振り返ってみたとき、長友は、「私1人いなくても仕事は成り立つ。その職場における存在感の薄さは代替可能」と気づいた。そして、ものを作って、人に喜ばれるような仕事をしようと思った。両親はイチゴ農家だった。長友もイチゴを作りたいと思い、とにかく父親の下で、1年研修することにした。

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