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世界農業遺産を訪ねて

テロワールの参入障壁から高収益 消費者支持が持続的農業を導く 静岡 水わさびの伝統栽培

「ワインと同じだ!」伊豆天城山中のわさび田を見たときの直観である。わさびは繊細な作物で、冷涼な気象、清らかな水、このテロワール(風土)が高品質のわさびを育てる条件である。 伊豆の水わさびの10a当たり収入は300万円以上と極めて高い。この高収益性が300年近い持続的農業を支える一番の要因だ。「畳石式」という伝統的な栽培方式、生物多様性を育む農法が採られている。

1 日本一のわさび産地

伊豆半島の山中に、渓流沿いに美しい景観が広がる。世界農業遺産の「わさび田」だ。5月中旬、静岡県伊豆市の中伊豆地区、筏場(いかだば)を訪問した。山間地の沢を開墾して、階段状に小さな田んぼ様の圃場が連なっている。田んぼはまだ早苗だが、周年作物のわさび田は青々と葉が茂っている。

高収益を誇る基幹作物
この筏場の景観は300年近く前から続いているであろう。農家が50戸あるが、山間地であるにもかかわらず、後継者がいる。やめる人はいない(わさび田を手放す人はいないと言うべきか)。水わさびは“高収益”だからだ。10a当たり収入は300万円を超える(400万円以上の生産者も)。当地の他の作物は茶30万円、水稲11万円、栗18万円である(世界農業遺産認定申請書15頁)。
ちなみに、全国的に見ても、10a当たり収入は露地野菜50万円、ハウス栽培のキュウリ、ナス、トマト等は300万~400万円である。水わさびは施設園芸並みの高生産性であり、一方施設コストは小さいので、労働報酬は著しく高いといえよう。
また、全国の農業発展地域と比較しても生産性は高い。表1に示すように、花卉園芸で栄え全国市町村別農業産出額1位の愛知県田原市の100万円、3位の茨城県鉾田市62万円(野菜産地)と比較しても高い。高収益性が300年持続の一番の背景であろう。生わさびは薄緑色をしており、「緑の黄金」といわれるが、まさしく再生可能な「緑の黄金」である。
筏場は戦国時代の落ち人が開拓したといわれている。代々子孫に継承されてきており、手放す人はいない。天城山系の水が枯れない限り、わさび農業が続くであろう。
静岡県は日本一のわさび産地である。産出額は53億円、全国シェア8割を占める(2018年、表2参照)。東京・大阪市場では、わさび(根茎)は静岡産が9割を占めている。

世界で広がるわさび生産
わさびは日本原産で古代から利用されてきた。食材としては19世紀初頭、握り鮨に利用されるようになり人気となった。根茎をおろしたときの刺激性のある香味が特徴である。辛味や風味が好まれただけではなく、その抗菌性も知られていたようだ。今日では寿司や刺身、そばの薬味として使用され、なくてはならない香辛料として和食文化を支えている。和食だけではなく、牛肉ステーキの薬味として添えることも珍しくなく、パスタのソースなどにも隠し味として使われる。

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