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今回の取り組みのもう一つの中核は、畑作と連携した豚の肥育と、その加工品の生産だ。山形大学農学部では、松尾氏の寄付で実験用肥育豚舎を整備し、地域飼料資源の組み合わせ方を研究した。
以下は、松山裕城准教授の報告から、筆者が聞き取った概要を、筆者の観点から要約したものである。
研究の結果編み出されたのは、子実トウモロコシ36%、規格外の馬鈴薯(サイレージ)19%、規格外の大豆4%、ふすま9%、それに庄内産以外も含む飼料用玄米27%という配合だ。庄内産での自給率は、81%になるという。
協力農家がこの配合で育て、年間80頭出荷する豚は、鶴岡市に戦前から立地する老舗の東北ハムにおいて、庄内スマート・テロワールブランドのハム、あらびきソーセージ、そしてベーコンに加工され、市販されている。
ちなみに馬鈴薯サイレージには、難消化性でんぷんが多く含まれており、小腸内で消化されきらずに大腸に到達して、これが大腸内の細菌環境の改善を促すという。そのため、肥育速度の増加、脂質の減少(赤身肉の増加)、糞尿内のアンモニアの減少による悪臭の低減、の3つの効果がもたらされるとの研究結果が出た。馬鈴薯は、夏に高温な庄内の気候、水分の多い庄内の低地の土質にはなじまないほか、農家の収益性も低い(後述)という問題はあるが、スマート・テロワールの実現に向けた素材としては、様々な可能性を秘めているわけだ。
また庄内スマート・テロワールブランドの肉加工品の地元での販路拡大を図るべく、消費者型官能調査(消費者による味への評価)、分析型官能調査(味覚のプロによる味への評価)、うまみ成分の分析を行ない、市場の嗜好に合わせた製法などを改良した。
このような努力の結果、ハム、あらびきソーセージ、ベーコンの販売額は、発売後3年間、順調に増加している。
今後は、地域外からの供給に頼る大豆粕やアルファルファミールを代替できるような、蛋白源となる飼料の、地域内調達に取り組む予定だ。そのために、下水汚泥からの分離液を肥料とする、高栄養の飼料用米生産の研究に着手している。また精肉用ではなく加工用に適した、肉量の多い豚の品種改良も試みる予定だという。
全国への示唆に富む経営学の見地からの分析
今回の報告会では、前述の通り、経営学の見地からの研究報告もあった。大別すれば、地元消費者の嗜好の調査と、地産地消の経済効果の定量計測の2つだが、全国の農業経営者に広く認識されるべき結果が出ている。
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藻谷浩介 モタニコウスケ
山口県生まれの56歳。(株)日本総合研究所主席研究員、一般社団法人スマート・テロワール協会理事。平成合併前の全3,200市町村、海外114ヶ国を自費で訪問し、地域特性を多面的に把握。2000年頃から精力的に、地域振興や人口成熟問題に関する研究・著作・講演を行っている。著書に『デフレの正体』、『里山資本主義』 (共にKADOKAWA)、『世界まちかど地政学Next』(文藝春秋)など。近著(共著)に 『進化する里山資本主義』 (Japan Times)、『東京脱出論』 (ブックマン社)。日本農業新聞のコラム「論点」に、2014年以来、年2回寄稿中。
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