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新・農業経営者ルポ

“成田の石油王”が挑む 進化し続ける水田経営

水が湧くほど条件が整わない湿田で奮闘する小泉輝夫は、どれだけの仲間を励まし、鼓舞してきただろうか。ときには思い悩み、ときには弱音を吐く。それでも作業はやめないし、妥協しないし、情報収集も怠らない。その実践に裏付けられた技術談義には説得力があり、農家仲間も行政も研究者もメーカーも唸る。就農当時から目指してきた経営ビジョンを貫いてきた 「成田の石油王」の想いとはー。 文/加藤祐子 写真/江藤はんな・小泉ファーム・加藤祐子

穫れる圃場への第一歩は圃場を乾かすこと

「秋の収穫後、早めにスタブルカルチをかけて乾かし、プラウをかけると、冬場に霜が立った後に太陽に当たることで、土はフカフカになる。寒ざらしといって、土が乾くと窒素成分も出てくるんだ」
電話越しに2時間余り、怒涛のレクチャーが返ってきた。土づくり作業機の特集を担当した約9年前のことである。耕すことへの熱意、あるいは土に向き合う真剣な姿勢に圧倒されながらも、素人なりにワクワクした。作業の一つ一つに、考え尽くされたノウハウが詰まっていることが伝わってきたからだ。この電話取材こそが、小泉輝夫との出会いだった。
小泉ファームのメインの作物はコメ、大豆と子実用トウモロコシを合わせて、現在の耕作面積は約52haに及ぶ。拠点は、成田国際空港から約10km北側の千葉県成田市久住地区にある。利根川水系の尾羽根川と根木名川の流域で、台地を川が浸食してできた谷津が多いエリアだ。夏には蛍が舞い、いまでも多様な生態系が残っている。しかし、耕作条件はお世辞にも良いとは言えない。水に恵まれている反面、海抜は10m以下、地下水位が高く、排水性は著しく悪い。狭小区画の湿田ばかりで、付帯道路も当然ながら狭い。規模拡大や作業効率化は苦労を強いられる条件のオンパレードだ。
「作物の穫れる圃場への第一歩は、排水性を改善すること。肥培管理に力を入れても、排水性が悪く、根の成長が阻害されれば、その努力は報われないでしょう」
小泉の話す乾田化とは、暗渠を入れて田んぼの水を思いっ切り抜くことを指す。水保ちが良くないと良質米は穫れない。減水深を適度に保つために、乾かす圃場は乾かし、乾き過ぎる圃場ではどう水を与えるかを考えるという。
例年、冬季は春作業が始まるギリギリまで自前で暗渠を施工する。傾斜をレーザーで正確に測って溝を掘り、もみ殻とコルゲート管を埋設する。若い頃に業者から盗み取った技術は年々磨きがかかり、いまではプロフェッショナルの域に達する腕前だ。掘削ドリルを溶接した溝掘機に、もみ殻のフレコンを吊るすクレーンを組み付け、コルゲート管のコイルを抱えながら埋設するオリジナル機を開発し、改良を重ねてきた。これまで培ってきた手腕が評価され、請け負う事業は数年先まで決まっている。
暗渠を施工した圃場は、できる限りプラウで下層土を掘り起こして、乾かす。太平洋側の低温で乾燥する冬の気候はこの作業に持って来いだ。湛水後に土壌から供給される窒素が増加する乾土効果も期待できる。
畦畔を取り、隣接する圃場を合筆する際にもプラウを使う。プラウ跡の山はレベラーで均すが、田面をほんの少しだけ斜めに仕上げる。全面、同じ勾配に仕上げてはダメらしい。小泉の頭の中には3次元の施工イメージが描かれていて、水稲の流し込み肥料をまんべんなく行き渡らせるのも、畑作物を作付けした場合に周囲の明渠に降雨後なるべく滞水しないように排水を促すのも、この勾配の仕上がり次第というのだ。この手の技術談義は奥が深く、話し始めたら止まらなくなる。

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