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新・農業経営者ルポ

“成田の石油王”が挑む 進化し続ける水田経営


小泉はこう言い切る。常に目標から逆算して作業を組み立てているからだ。水稲の目標はさまざまな条件の圃場があるなかで、平均反収9俵(540kg/10a)を確保すること。仕上がっている圃場では穫れても、深く起こせない圃場では攻められない。目標を下回らないように、この時期にどの作業を済ませておきたいのか。毎年何らかのトラブルに遭遇するなかで、基本の「キ」を押さえる大切さに気づかされたのだ。
実際には、雨が続いて圃場に入れなかったり、従業員が急に来られなくなったり、急な来客が入ったり、なかなか思うように作業は進まない。2019年には台風15号の直撃を受けて、作物だけでななく、農業機械を格納していた育苗用ハウスが全壊した。実は、ハウスの倒壊は10年間で3回目だった。災害復旧の前提となる原状復帰を諦めて、床にコンクリートを打ち、頑丈な鉄骨ハウスを建てた。広いだけでなく、光を遮蔽したため夏場でも中は涼しく、快適に使えている。
もちろん、頭の中には「いまやりたいこと」と「将来的にやってみたいこと」が溢れている。今年は大豆の播種が順調に進んだ。そこで、乗用管理機による追肥作業と並行して、ドローン専用の尿素肥料の散布を試した。実演機や資材を手配しても、今年は使えないかもしれない。それでも、天候と時間の許す限りチャンスを狙わずにはいられない。その探求心は年々、研ぎ澄まされている。

「成田の石油王」には同志の親愛が溢れている

冒頭の電話取材をした時期には、地域の信頼を得て徐々に農地が集まり、経営面積が30haを超え、作業体系がある程度確立してきた頃だった。30代半ばの小泉は、全国にいる“誰もやっていないこと”に挑戦する水田農家との交流を求めて、本誌読者の集まりや、土を考える会の研修会に積極的に参加するようになった。
農業機械をこよなく愛する水田農家には熱意がダイレクトに伝わり、小泉の元を訪ねて交流をする仲間も増えた。なかには暗渠施工の時期を狙って、その技を学びに出向いた者もいた。いつしか小泉に、湿田から潤沢に水が湧き出る様を石油の採掘になぞらえた、「成田の石油王」の異名が付いた。仲間の多くは湿田で自ら苦労しているため、同志ならではの尊敬の意を込めて呼んでいるのだ。
暗渠施工は「油田開発」と呼び、田植機やトラクターが田んぼにハマれば「ブラジル行き」だ。地下を潜って地球の反対側にたどり着くという意味で使われているが、いずれも苦労を笑いに変えたユーモアである。

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