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一方で、仲間が増え、交流の輪が広がるほど、小泉のもどかしさは増している。約20年近くかけて、畦畔をとり、複数の圃場を合筆してきた結果、登記上500筆近くある圃場は、今年大豆を播き始めた時点で182筆になった。この数字こそがこれまでの苦労を物語っている。単純に1圃場当たりの平均面積を計算すると、30aに満たない。1haを超える圃場もあるが、いまだに作業効率の悪い狭小区画を多く抱えている。
水田農業は、規模拡大や作業の効率化が経営を左右する。周りの農家がやりたがらない苦労を長年続けてきたのだから、自覚はあった。北海道から九州まで数多いる農家の誰よりも、営農環境が恵まれていないという現実には、正直参ったと苦笑いを浮かべる。
湿田でも乾田化すればトウモロコシが穫れる!
「今年は攻めまくるよ。どっちに転ぶか、いや転べるかどうか」
小泉は今年、飼料用米をやめて、思い切って8haにトウモロコシを播いた。昨年までの試験栽培から、事業化に踏み切る勝負に出たのだ。理由は2つある。昨年、早期播種の作型に手応えを感じたことと、県内あるいは関東周辺の牧場や養鶏家から国産トウモロコシのニーズが寄せられたことである。
そもそも、湿田で子実トウモロコシの栽培に挑戦したのは、誰もやっていなかったからだ。北海道で取り組みを始めた柳原孝二さん、岩手・花巻で挑戦した盛川周祐さん、秋田・大潟村で挑戦した宮川正和さんに刺激を受けて、14年に初めてトウモロコシの種を播いた。水稲の春作業が落ち着いた6月のことだった。大豆以外の畑作物は未知の領域だったが、排水性改善に真剣に取り組んできたからこそ、湿害に弱いトウモロコシ栽培を試してみたい意欲に駆られた部分もあっただろうと思う。
その後、17年にかけて3haまで広げた。だが、18年はアワノメイガの被害を受けて生育不良になり、19年は台風の直撃で全面倒伏。それでも諦めずに種を播き続けた。そして昨年、台風被害からの復旧工事の影響で春先の水稲作業が遅れ、3月中に播種を試みることになった。9月より前に収穫できれば、台風によるリスクを大幅に軽減できる。ようやく7年目にして早期播種・早期収穫の作型に手応えを感じるに至った。
子実トウモロコシは、現状では需要先を自ら確保しなければならない。初年度は育つかどうかが命題だった。収穫してから需要先を探すことになったが、その段階で出会ったのが、酪農家の上野裕さんと養豚家の塚原昇さんである。翌年から早速、取引が始まった。当面は量ではなく、共に取り組みを重ね、認知を広げることに賛同してもらった。ときには水田農業の常識が通じない場面もあるが、粘り強くコミュニケーションを重ね、信頼関係を深めた。
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小泉輝夫
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