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特集

AGRI FACT(前編)


グリホサートが原因でないのならば、何が子マウスにASDに似た行動を引き起こしたのか。最大の要因は、千葉大学の動物実験で使われたグリホサートの投与量があまりに大量だったからと考えられる。研究者自身が「本実験で用いたグリホサートは高濃度(0.098%)である」と言う。この濃度の水を体重およそ30gの妊娠マウスに与えたとすると、1日4.9mgのグリホサートを投与したことになり、体重1kg当たりに換算すると163.3mgとなる。
日本の食品安全委員会では、人間1人が1日に摂取しても安全なグリホサートの量を体重1kg当たり1mgとしており、実験でマウスに投与された量は実にその160倍以上だった。人間が摂取するのは物理的に不可能な量で、マウスに何らかの異常行動が生じても不思議ではない。
腸内細菌とASDに関係があるとする説はいくつかあるが、いずれも科学的に証明されていない相関関係を使った仮説、それもかなり無理がある推論ばかりである。たとえば、交番の数が多い地域ほど、犯罪件数が多いという事実があり、相関関係があるとはいえる。だからといって「交番が多いから、犯罪件数が多い」という推論が成り立たないことは明らかである。因果関係を明らかにせず、相関関係のみで推論すると間違った結論になることが多い。
藤田氏は2020年10月11日の投稿で「海外の動物実験では、肝臓や腎臓などに悪影響を与えることも分かっている。」ともつぶやいているが、動物実験の結果がそのまま人間に当てはまるわけではない。マウスは哺乳類なので、トカゲや鳥に比べるとずっと人間に近い動物ではあるが、言うまでもなく、マウスの実験結果がそのまま人間に当てはまるとはいえない。
神経科学の権威であるカルフォルニア大学サンディエゴ校のアリソン・ムオトリ教授は、「自閉症は多因子性のヒトの状態で、意義のある精度でマウスやサル等でこれを再現することは非常に困難である」と述べているほか、「ASDの研究は、マウスを使った信頼性の低い動物実験のせいで遅れている」と主張している。「iPS細胞の開発など新しい技術で可能になった、培養した人間の神経細胞を使った実験の方が、よりASDの研究は進むだろう」と予測している。
千葉大学の実験で明らかになったのは、グリホサートの危険性ではなく、むしろ「グリホサートとASDの関連性が確認できなかった」ことである。したがって、「(グリホサートがもたらす健康被害には)発達障害など子供たちへの影響がある」という投稿は、「科学的根拠なし」と判断される。

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