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スマート・テロワールの実践者たち

農業×若者×ITが爆発的進化を遂げる月山高原 山形県鶴岡市/岡部 勝彦 氏((有)佐藤測量設計事務所)高田 庄平 氏(ベジパレット)

令和の日本には、幕末と似たところがある。 幕末の日本は、欧米に比べ平和で衛生的で、庶民文化も爛熟していたが、身分制度と前例踏襲主義に縛られ、身分の低い大多数を人材として生かせず、産業革命という技術革新にも決定的に立ち遅れていた。
令和の日本も、平和で衛生的で(たとえば新型コロナでの人口当たり死者数は欧米の十数分の1だ)、庶民文化も爛熟している。しかし身分制度と前例踏襲主義に縛られ、若者や女性の人材力発揮と、デジタル面での技術革新に立ち遅れつつある。
令和の日本の「身分」とは、性別、学歴、年齢、正規・非正規の区分、会社の親子関係、親から継ぐ地位や財産などだ。本人の素の実力と無関係なこれら形式基準が、まるで江戸時代の“身分”のように組織を縛り、地位と実力の不一致が、当たり前になってしまっている。
幕末の上級武士たちは、20年後の日本のリーダーが百姓や下級武士出身の若者たちに完全に入れ替わっているということを想像できなかった。今までの日本でそれなりにうまくやってきた中高年層が、若者や女性が主導する組織や地域社会を想像できないのも当然だろう。
だが身分制度を守りデジタル化に抵抗する高齢世代の方が、先に世を去る運命であって、次世代による変化は止められない。農業という、伝統的で保守的な世界でも同じだ。
農家の子弟という「身分」を持たない若者たちが、ITを駆使して農業に挑戦する、山形県鶴岡市月山高原。農業×若者×ITがもたらすノウハウの爆発的進化の先に、まだ誰も見たことのない未来が見え始めている。

GISで危機を「見える化」し農地集約を推進

山形県鶴岡市は、広大な水田単作地帯である庄内平野の南3分の1ほどを占めており、この連載の前回で紹介した、山形大学農学部も位置する。だが市内南東部の、旧羽黒町の南部にあたる一帯には、標高200m前後の台地が連なっており、水田以外にもさまざまな畑作や畜産に利用されている。これらの台地は修験道の霊場である出羽三山の主峰、月山の裾野にあたっており、月山高原と総称されている。
その月山高原の中に、「月山ろく11-3団地」と呼ばれる、92haの畑作地がある。出羽三山の一つで国宝の五重塔の残る羽黒山から、3kmほどの場所だ。戦後に開拓され、農業者に分譲された農地で、地区内に住居はなく、その後の相続を経て所有者は多数に分かれている。
ここでの農業には、大きく二つの課題がある。一つ目は、後継者のない農地が、遠からず発生してくる見込みであったこと。二つ目は連作障害への対処だ。いずれも、個々の農家が個別に対応できるものではなく、踏み込んだ連携が必要だったが、大きく事態が動いたのは2019年、鶴岡市農業委員会羽黒分室と(一社)山形県農業会議を事務局に、地区の農家を集めて「月山高原活性化戦略会議」が組成されてからだった。そして、話を前に動かす鍵となったのは、事務局に地場の非農業会社2社を加えたことである。GIS(地図情報)技術を持つ(有)佐藤測量設計事務所と、鶴岡市でタウン情報を発信する(株)アイディアだ。
事務局はまず各農家に、今後の規模拡大ないし縮小、あるいは離農の意向ないし見通しをアンケートした。その結果、地区内には後継者のいない高齢農業者も多く、「5年後には地区の3分の1にあたる31haが非耕作地になる可能性あり」との結果が出た。他方で中心的な経営体38のうち、規模拡大を目指すものも3つあった。

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