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【世界農業遺産を訪ねて】
静岡・茶草場農法 世界の風が茶産地を変えるか 美味しいを売るか機能性か
- 評論家 叶芳和
- 第3回 2021年08月23日
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1 日本一のお茶産地
日本三大銘茶「川根茶」の産地、静岡県川根本町は南アルプス光(てかり)岳の南に位置し、“天空の茶産地”と呼ばれている。霧が深く、昼夜の温度差があるため、良質なお茶が育つ。地域は山の緑に溢れ、茶畑は2番茶の収穫が始まっていた(7月初め)。
川根のあと、菊川市(倉沢)、掛川市(東山)、牧之原台地と、日本一を謳う静岡茶の有名産地を巡った。800年続く「茶草場(ちゃぐさば)農法」を実践している地域であるが、現代の茶ビジネスとの葛藤の中で農法として生き残れるか、その未来を探った。
静岡に茶をもたらしたのは鎌倉時代の名僧、聖一国師といわれる。仏教を学ぶため1235年に宋(中国)へ渡り、帰国に際し茶の種を持ち帰り、安倍川沿いに播いたと伝えられる。江戸時代、駿河は茶処として広く全国に知られていた。明治期、茶輸出の拠点となる牧之原台地の開墾も、静岡茶が日本一となった大きな要素である。
■世界農業遺産認定
静岡の茶の歴史は長い。独特な農法が今日まで残っている。茶園の畝間にススキなど山草を刈敷きする伝統的農法「茶草場農法」だ。この茶草によって、茶の味や香りが良くなるといわれている。この農法は、高品質なお茶を生産しようとする農家の努力により、今日まで継承されてきた。
毎年秋に草刈りを行なうことによって地面まで日が当たるので、生存競争に弱い動植物も生息できている。希少種を含む多くの動植物が生息し、生物多様性の宝庫になっている。このように農業と生物多様性の両立が評価され、国連食糧農業機構(FAO)から「世界農業遺産」に認定された(2013年)。
システム名は「静岡の茶草場農法」。認定地域は掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根本町の4市1町である(表1参照)。
茶草場農法は、生態系の保全には寄与しているが、お茶が高く売れるわけではないといわれる(必ずしも正しくはない)。手間暇がかかる茶草場農法は、茶ビジネスの経済合理性に立ち向かえるであろうか。
■天空の茶産地「川根」
川根本町の「つちや農園」(土屋鉄郎さん、82歳)を訪ねた。南アルプスの南、標高600mにある。田野口駅を降り、両脇に立派な杉の木が伸びる山道をくねくねと登る。駅が標高200mなので400mの標高差だ。茶草場農法の実践者では一番標高が高い。「天空の茶園」でお茶を作っているわけだ。ここ「おろくぼ集落」の住民は9戸。茶農家は減り、今年からは土屋さんだけになった。
この地域は、昔は林業で栄え(昭和の時代まで)、農業は一部であった。お茶は戦後である。製茶の機械を買うときも、山を売ってカネを工面した。茶草場農法はいつごろから始まったか質問した。
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叶芳和 カノウヨシカズ
評論家
1943年、鹿児島県奄美大島生まれ。一橋大学大学院経済学研究科 博士課程修了。元・財団法人国民経済研究協会理事長。拓殖大学 国際開発学部教授、帝京平成大学現代ライフ学部教授を経て2012年から現職。主な著書は『農業・先進国型産業論』(日本経済新聞社1982年)、『赤い資本主義・中国』(東洋経済新報社1993年)、『走るアジア送れる日本』(日本評論社2003年)など。
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