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世界農業遺産を訪ねて

静岡・茶草場農法 世界の風が茶産地を変えるか 美味しいを売るか機能性か

茶草場は生物多様性の宝庫であり、CO2削減効果も大きい。しかし、お茶が高く売れるわけではない。手間暇かかる農法であり、茶ビジネスとの葛藤の中で生き残れるか。輸出市場が大きくなれば、品質ではなく発売時期の早さで決まるお茶の価格形成も変わる可能性がある。

1 日本一のお茶産地

日本三大銘茶「川根茶」の産地、静岡県川根本町は南アルプス光(てかり)岳の南に位置し、“天空の茶産地”と呼ばれている。霧が深く、昼夜の温度差があるため、良質なお茶が育つ。地域は山の緑に溢れ、茶畑は2番茶の収穫が始まっていた(7月初め)。
川根のあと、菊川市(倉沢)、掛川市(東山)、牧之原台地と、日本一を謳う静岡茶の有名産地を巡った。800年続く「茶草場(ちゃぐさば)農法」を実践している地域であるが、現代の茶ビジネスとの葛藤の中で農法として生き残れるか、その未来を探った。
静岡に茶をもたらしたのは鎌倉時代の名僧、聖一国師といわれる。仏教を学ぶため1235年に宋(中国)へ渡り、帰国に際し茶の種を持ち帰り、安倍川沿いに播いたと伝えられる。江戸時代、駿河は茶処として広く全国に知られていた。明治期、茶輸出の拠点となる牧之原台地の開墾も、静岡茶が日本一となった大きな要素である。

■世界農業遺産認定
静岡の茶の歴史は長い。独特な農法が今日まで残っている。茶園の畝間にススキなど山草を刈敷きする伝統的農法「茶草場農法」だ。この茶草によって、茶の味や香りが良くなるといわれている。この農法は、高品質なお茶を生産しようとする農家の努力により、今日まで継承されてきた。
毎年秋に草刈りを行なうことによって地面まで日が当たるので、生存競争に弱い動植物も生息できている。希少種を含む多くの動植物が生息し、生物多様性の宝庫になっている。このように農業と生物多様性の両立が評価され、国連食糧農業機構(FAO)から「世界農業遺産」に認定された(2013年)。
システム名は「静岡の茶草場農法」。認定地域は掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根本町の4市1町である(表1参照)。
茶草場農法は、生態系の保全には寄与しているが、お茶が高く売れるわけではないといわれる(必ずしも正しくはない)。手間暇がかかる茶草場農法は、茶ビジネスの経済合理性に立ち向かえるであろうか。

■天空の茶産地「川根」
川根本町の「つちや農園」(土屋鉄郎さん、82歳)を訪ねた。南アルプスの南、標高600mにある。田野口駅を降り、両脇に立派な杉の木が伸びる山道をくねくねと登る。駅が標高200mなので400mの標高差だ。茶草場農法の実践者では一番標高が高い。「天空の茶園」でお茶を作っているわけだ。ここ「おろくぼ集落」の住民は9戸。茶農家は減り、今年からは土屋さんだけになった。
この地域は、昔は林業で栄え(昭和の時代まで)、農業は一部であった。お茶は戦後である。製茶の機械を買うときも、山を売ってカネを工面した。茶草場農法はいつごろから始まったか質問した。

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