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なぜ19年版から特例3要件の説明を省いたか。これこそ農協等・卸売市場特例の最大のポイント部分ではないか。
そこを外したというのは、3要件見直しの“ためらい傷”ではないかと勘ぐった。もし見直しが必要であった場合に備えての対応ではなかったかという見方である。結果として農水省の混乱ぶりをさらけ出したようなものである。
税の不公平をもたらす“奥原特例”
要件見直しについて別のルートで確認したところ、農水省は試みようとしたものの、当時の担当局長による国会答弁がネックとなり、見直しを諦めたということのようだ。それは16年1月4日召集の第190回国会での答弁だった。この国会では、直前の15年12月に与党税制協議会で決定したインボイス制度が質疑の焦点だった。
質疑は本会議や予算委員会などで45回もあった。農協等・卸売市場特例が質疑の対象となったのは、日本維新の会の足立康史衆院議員が質問した2月25日の衆院予算委員会と、日本共産党の紙智子議員の質問に対する3月23日の参院農林水産委員会の2回だ。
答弁に立ったのは、当時経営局長だった奥原正明氏である。その奥原氏は、同年6月から18年7月まで同省事務次官を務めた。在任中、農協改革に奔走したことから“ミスター農協改革”と呼ばれていた。
本稿執筆のため、議事録を何回も読み返してみた。なぜ農協等や卸売市場だけに特例を与えたのか、そういう特例を一方に与えれば、農協の競合相手でもある商人系集荷業者から猛反発を受ける。残念ながら質問する方も答える方も、そのことに想像がつかなかったようだ。
与党原案は、その作成段階から農水省経営局と綿密に打ち合わせていたはずだ。商人系集荷業者などから批判の対象になる特例措置「(1)農協等や卸売市場」の要件が、奥原氏による提案によるものか、与党税制協議会が当初から考えていたものかは不明だが、現段階でいえば、提案をしなくても経営局長として、(1)を要件にしても何ら問題がないことを助言はしていたはずだし、あるいは原案の作成者だったという見方もある。そういう経緯もあり、“奥原特例”と呼ぶ方もいる。
さて質疑を読み返して気が付いたのは、質問する方も答える方も、税の基本「公平・中立・簡素」を置き去りにした議論に終始していたことだ。
お粗末極まると思ったのは、仕入れ税額控除の特例措置を議論しているのに、質問する方は農家にとってメリットがあるかどうかだけを質問していたことだ。質問する方も答える方も、公平さを欠く欠陥税制であることに気が付いていないようだった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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