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「農協等や卸売市場」要件に根拠なし
例えば、農協等特例。農協等だけに特例を与えれば、競合相手で会社形態の商人系集荷業者などが強く反発してくることは目に見えている。それも少数ではない。取扱金額ベースではもはや多数だ。全国の米産出高1兆7484億円(19年)に対し、農協の取扱高は8545億円(19年度)でシェアは48.9%。すでに商人系集荷業者に逆転されている。
ちなみに関東の集荷激戦地・茨城の農協シェアは21.8%、千葉で30.2%。もはや農協は集荷の少数勢力でしかない。農協等特例は、産地を大きく揺るがす火種であることは間違いない。
次いで(2)無条件委託方式。農協の集荷は無条件委託方式だけではない。買取集荷もある。19年度は15%を占めた。これは明確に、仕入れ税額控除の対象外となる。農協改革の一環で、農水省が買取集荷を呼びかけてこの数字に積み上がった。その檄を飛ばしたのは、誰あろう“ミスター農協改革”の奥原氏だ。
その優等生のような事例は、商人系業者と激しい集荷競争を繰り広げる千葉県香取市が本拠のJAかとりだ。年間取扱量40万俵は全量買取集荷。従って(1)農協等や卸売市場という要件をクリアしていても、(2)無条件委託方式ではないので仕入れ税額控除の対象外になってしまう。農協等特例は、農協においても集荷・販売対策の基本を揺るがす大問題となっている。
農協等・卸売市場特例が示す、(2)無条件委託方式と(3)共同計算方式は、インボイス制度に沿った合理的に説明がつく要件と思うが、(1)農協等や卸売市場の要件は、マーケットでの取引実態を無視したものであり、到底、合理的な説明がつくものではない。
今回、財務省が仕入れ税額控除を認めたのは、「適格請求書」(インボイス)が発行できないとされた取引行為についてである。ところがなぜか、農協等・卸売市場という組織形態を要件に加えてきた。財務省や国税庁の資料を読み返しても、協同組合という組織形態を要件にした合理的な説明は何も示されていない。
その説明がなく、特定の組織形態を要件に加えて仕入れ税額控除の対象とすることは、公平を旨とした税の基本原則に著しく反することになる。
これをめぐるトラブルは、いずれ税務署の窓口で頻発する。なかには国税不服審判所に持ち込まれるケースも出てくるに違いない。国は、その訴訟に耐えられないと思う。その判断根拠は、いまだに満足に説明できない農水省のお粗末な態度にある。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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