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新・農業経営者ルポ

農民であっても、義のために闘うサムライ。

かつて筆者が愛知で植物の組織培養の仕事をしていたとき、よく話を聞きに来る男がいた。岡本重明だ。好奇心旺盛で、変人だと思った。ここでいう変人とは、バイタリティーにあふれ、納得するまで追求する正直者のことを意味する。本稿のテーマの一つに“枠をはみ出た農家”というのがあり、岡本はまさにそのイメージにぴったりの人物だった。 今回、30数年ぶりに会ったのだが、青年時代のすごみは相変わらず持っていたものの、やはりおジイになっていた。ただ、声のでかさは当時のままで、毒舌も変わっていなかった。この“枠をはみ出た変人農家”を若い農業者にこそ知ってほしいと願う。 文/土下信人、写真/岡本重明
岡本が営農する渥美半島は、年間を通じて温暖な海洋性気候で、年平均気温は約17℃である。年間降水量は約1600mmとやや少ない(伊良湖観測所)。半島の大半を占める田原市は、北は風光明媚な三河湾、南は沖合に黒潮が流れる太平洋に囲まれている。トヨタのレクサス工場があり、系列会社も多いことで知られる。
同市の農業生産額は851億円(2019年)と、日本第2位である。ここ5年間、首位を保っていたが、宮崎県都城市に追い越された。花(キクが主力)が334億円、野菜類(キャベツ、ブロッコリー、メロンなど)が300億円を誇る。そこに存在するJA愛知みなみは国内最大規模の農協である。
華々しさの一方で、農業で失敗して廃業した家や若者たちが都会に就職することで過疎化現象が起こっている。農業に適した地域でも、老人たちだけの限界集落のような風景が見られ、耕作放棄地も広がっている。昔の良き田舎の風景はなくなってきているのが実態である。
とりわけ、2020年の春から今日まで続いている新型コロナウイルス禍によって、キクの生産と価格が直撃を受けている。葬式用の花が簡素化され、キクが使われない状況が生まれているのだ。キクが主力だった田原市の農業は大きな転機を迎えているといえる。

農協はいらん。

岡本は40数年間、専業農家で生計を立ててきた。現在、160ha(うち受託作業が60ha)でのコメをはじめ、大麦を10ha、その他の作物を数ha手がけている。
1993年に農業生産法人(有)新鮮組を設立して以来、社長を務めている。当初は、売上高が約3000万円だったが、2020年には1億5000万円と5倍になった。
そんな岡本が開口一番、「農協はいらん」と言い放った。国内最大規模の農協に対してである。
農協とは、数えきれないくらい衝突し、嫌がらせを受け、悔しい思いをしてきたのだという。農業は危機に瀕している。後継者不足、資材高騰、農産物価格の不安定性と下落。その中で、農業を復興し再生しようとするが、農協は“ムラの掟”でがんじがらめにして、補助金に誘導する。農業団体が生き残るために利権と利益を独占する。農協はもはや農業を守れない。また、その気概もない。農業を守るのは農業経営者なのだという。
「農業に未来がある。21世紀の産業は農業だ」

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