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科学的な解説については、正直なところ当時の自分には難解で、十分に理解できた自信はなかったが、それでも『沈黙の春』時代の反省から、農薬の成分は大きく改善され、使用基準は非常に厳しくなっており、安全性が大幅に向上していることは理解できた。
また、農薬が普及する以前の時代に、病害虫がどれほど深刻な被害を及ぼし、人々の生存を脅かしてきたのか。農薬が必要とされてきた歴史的背景と恩恵について知ることができたのは大きかった。負の側面も多く抱えつつ、戦後の高度成長期以降、食料の安定供給にとって農薬や化学肥料がひとつの要を担ってきたのは揺るぎない事実だった。
仮に自分だけが食事をすべてオーガニックに切り替えたところで、社会を回しているのは別の巨大なインフラだ。他者との関わりを完全に断ち切らない限りは、嫌でもそれに依存し、共生関係のなかで生かされている。
自分が農薬の恩恵を受けている、受益者の側であったという視点は、全く抜け落ちていた。「今日はオーガニックが売り切れてたから、スーパーで普通の野菜買っちゃったんだよね」と言われてしまうときの、“普通”の側の気持ちを想像してみる。
恩恵を盾に批判を封じ込めるつもりはない。だが対話を通じて、農薬の歴史と現在、そのメリットも理解した上で、もう一度、自分の言葉でオーガニックを選び直すことができるか、と問い直すことには意味がある。
■知らない消費者が悪いのか
後日、近隣農家のご厚意でJAの勉強会にもスタッフと一緒に参加することができて、IPM防除や緑肥の利用など、慣行農業の枠内でおこなわれている工夫についても、実際に圃場を見ながら学ぶことができた。
オーガニックカフェという場にいながら、農薬や慣行農業についてきちんと教わる機会があったのは幸運だったし、胸を貸していただいた方々には感謝しかない。
だが時を経て痛感するのは、いまだに農薬の正確な情報を消費者層にまで伝えられるコミュニケーターが絶対的に不足している事実だ。これほど社会の根幹を担うインフラにも関わらず『沈黙の春』『複合汚染』以降のアップデートがほとんど知られていない。
それを知らない側、学ばない消費者が悪いのだ、という考えには賛成できない。そもそも学ぶ場がないのだし、一方で『沈黙の春』『複合汚染』が指摘してきたような被害や事故が起こった過去も消えることのない、厳然たる事実だからだ。その時代のトラウマから無農薬を目指したという農家も、年代によっては少なくない。
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