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特集

堂島ショック コメ産業の社会的インフラ


本のタイトルは最初から決まっていた。「米産業に未来はあるか」。疑問形なのは、現状への強い危機感が発端にあったからだ。そして、この問いにYESと答えるための道筋を描くことが、刊行の目的だった。
この本は、生産者、流通・加工業者、元政策担当者、学識者たち総勢38人の論考を、一般財団法人農政調査委員会(吉田俊幸理事長)が編んだものだ。筆者は『週刊エコノミスト』編集部に在籍時、吉田理事長に寄稿を依頼していた縁で編集に携わった。

【猫の目農政のなかで“北極星”を目指す】

サブタイトルに「歴史を見つめ、明日を展望する」とあるように、輸出や米粉といった需要開拓をテーマとする一方で、コメ政策の歩みを食管法時代まで遡っている。
“猫の目農政”と呼ばれて久しいが、長い時間軸で俯瞰すると大きな流れが見えてきた。端的に述べたのが元農林水産審議官の針原寿朗氏である。「市場への政策介入をやめていく」というものだ。「米価安定」というもう一つの理念との綱引きで紆余曲折はありつつも、戦後の歩みを見ればコメへの政策関与は大きく退いた。針原氏はそれを、北極星を目指し、時に道を外れても戻りながら進む様に例えた。
ところが、2006年に米価下落を受け、米政策改革大綱の減反廃止から「国が生産調整に関与する」と逆戻りして以降、政策は迷走している。民主党の戸別所得補償制度はその実、直前に石破茂農相の下で針原氏が作成した「石破プラン」の選択減反がベースにあったと明かす。国の関与を脱することに米政策改革大綱とは異なる入り口から再チャレンジしたというわけだ。
「市場ベース」と「米価安定」の綱引きは、需要減と米価下落というもう一つの流れと相まって互角となり、飼料用米への巨額助成に「米価安定」の優勢が表れた現状が見えてきた。

【消費者・納税者視点の必要性】

今後の方向性をどう見出すのか。消費者、納税者の視点を欠いてはならないと気づけたのは、座談会における生源寺眞一氏(福島大学教授)の発言からだった。
生源寺氏はEC(欧州共同体)が1990年代前後に、農産物の支持価格を引き下げる代わりに財源で農業者所得を補填する方向に政策を切り替えたことを挙げ、「消費者負担と納税者負担の割合を変えることで、エンゲル係数の高い、低所得層を支えることにもなる」と指摘した。
需要側に近い米卸も、低価格帯のニーズを認識している。全国米穀販売事業共済協同組合理事長の木村良氏、米卸大手(株)ヤマタネ社長の山崎元裕氏はともに家庭用のブレンド米に言及した。汎用品としてベースラインにブレンド米があり、産地や品種、栄養機能など付加価値に応じて価格プレミアムが乗るイメージだが、飼料用米推進が「安いコメ」から「高いコメ」まで存在する市場の形成を妨げている。

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