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低所得層ほど価格が安く、栄養価のバランスを欠く食事を摂るため肥満が多いことは、世界的に問題となっている。健康面でコメの利点をうたい、主食として重要視するのであれば、米価維持は逆行する。とはいえ、生産者米価と消費者米価が逆ザヤだった食管法時代に戻るわけにもいかない。
選択肢として考えられるのは、価格形成を市場に委ね、経営の下支えを直接支払いで行なう形だ。座談会で生源寺氏は、欧州での環境支払い拡大について触れた。財政支出の正当性、納税者理解という面で、直接支払いに何らかの意味づけが必要なのは確かだ。コメの特性に適合した形で、どう要件を設計できるのか。方向性とともに課題が浮かんできた。
【校了後の先物廃止 そして禁断の市場隔離へ】
現実の政策は、「米価維持」の道を突き進む。
昨年7月に最初の編集会議をもってから刊行に至るまで、1年余りを要した。結びとなる座談会を緊急事態宣言が明けた今年6月に開催し、7月下旬に校了して印刷製本を待つ間に飛び込んできたのが、コメ先物上場を廃止するという報道だった。
コメ産業の未来を描くうえで、先物市場は重要なピースと位置付けていた。座談会では、新潟市の稲作経営者である坪谷利之氏が先物のリスクヘッジ効果を挙げ、参加者一同が「農協は最大の受益者のはずなのに、なぜ反対するのだろうか」と首をひねる一幕もあった。
現行の先物市場に問題がなかったわけではない。現物を扱う当業者向けの制度設計であるがゆえに、投機家が入りづらく相場が一方向に動きがちであること、国際穀物市場とリンクさせなければならないことをヤマタネの山崎氏が指摘している。
投機家は価格を乱高下させると憎まれがちだが、市場においてリスクを担う不可欠な存在なのだ。
ところが、先物廃止はすべてを御破算にした。続いて、衆院選に向けた米価引き上げ策として、立憲民主党が備蓄米による市場隔離を掲げた。岸田文雄氏も自民党総裁選の政策集で市場隔離を検討すると明記していた。
思い返したのは、本の冒頭で荒幡克己氏(筑波学院大学教授)が「『生産調整を廃止して政府緩衝在庫へ』という選択は、採用してはならない道である」と釘をさしていたことである。
在庫操作で主食穀物の価格を制御するには財政負担が莫大になり、財政的に許容できる程度の在庫操作では価格を制御できないことは、日米双方の歴史が証明しているという。
岸田氏は大きな方向性として、格差是正のための「分配」を打ち出している。主眼は社会保障による所得再配分や賃金引き上げだろうが、低所得層の負担となる米価維持は整合がとれるのだろうか。
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