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スマート・テロワールの実践者たち

大津波でも流せない テロワールと人の底力 復興最前線の挑戦者たち(岩手県陸前高田市)


10年を経た今、松原のあった場所には、L1の津波を防御できる高さ12.5mの防潮堤が設けられ、その周囲は「高田松原津波復興祈念公園」となって、4万本の松が植樹された。うち600本は、地元の女性が浜辺を散歩しては拾い集めていた松ぼっくりの中の種から育ったものだという。
より大きいL2への対処としては、平野部の数分の1ほどにあたる、かつての鉄道線路より北の部分を9~12m嵩上げし、そこに市街地を再建することとした。残る低地部分には住居を建てず、6次産業に利用する計画である。
かつての密集市街地を埋葬しての嵩上げをどう評価するか、市民の意見も分かれるようだ。だが造成された新市街地には、様々な有名建築家の協力で、公共施設、観光施設、公園などが新設されつつある。建物はいずれも低層で、この地方で産する気仙杉を多用した、和風で柔らかなデザインだ。ただ、道路幅含めた街路の区画形状に、車道が広くて街区は四角形という昭和の様式が全面的に採用されている点は、全国の地方都市でそうなっているように賑わい創出のネックとならないか、筆者はその点を少々心配している。

民間プロジェクトの先頭を走る「発酵の里CAMOCY」

他方で、嵩上げの行なわれなかった部分、つまり500年に一度程度の浸水は免れないがそれを除けば安全な低地部分に、どのように「6次産業」を構築するかは、これからの課題だ。これを受けて、地元や首都圏の民間企業の活力を導入した様々な取り組みが、試行され始めている。
「発酵の里CAMOCY」は、その先頭を走るプロジェクトだ。カモシーとは「醸す」から来た愛称
で、土地土地にある酵母菌を醸すようにじっくりと、地元ならではの味わいを出して行く意図が感じられる。
2020年12月に、気仙杉を用い気仙大工の建てた木造平屋が完成し、発酵をテーマとする8店舗がオープンした。中央部分は木の椅子とテーブルが並び、木の天井の下に明るく陽の射すフードコート状のホールで、店で買ったおいしいものを楽しめる。続けて周囲に、庭園と自社農園を整備していく計画だ。
CAMOCYがあるのは、市街地の西、気仙川を挟んだ対岸で、創業200年超の八木澤商店の味噌・醤油工場が、震災まで立っていた場所だ。八木澤商店は、化学調味料などの添加物を一切使わない本物の味で、古くから全国に知られていた。だが津波は、建物の外壁を残しただけで、伝家のもろみも、気仙杉の仕込み桶も、全てを洗い流してしまった。そんな中にもかかわらず、同社の河野社長(現会長)は、直後の4月1日に予定通り新入社員2名の入社式を行ない、全国に流れたそのニュース映像は、筆者を含めた多くの人に勇気を与えたのである。

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