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スマート・テロワールの実践者たち

大津波でも流せない テロワールと人の底力 復興最前線の挑戦者たち(岩手県陸前高田市)


ローカル炭酸飲料が各地で隆盛だった高度成長期に、当時の技術の限界から無果汁で発売された「マスカットサイダー」は、今でも土地っ子のソウルドリンクとして製造され続けている。「ノンアル派のための100%ジュース」を謳う「カンダクラフトジュース」も人気だ。
高台にあるブドウ園は、津波の際にもぎりぎりに浸水を免れた。しかも現社長は、これをきっかけに、ワイン醸造を復活するという攻めの手に出たのである。現在の農場は2.9ha。白ワイン向けには、ナイヤガラやシャインマスカットのほか、ケルナー、ソーヴィニヨンブラン、リースリングリオン、サニールージュを栽培し、さらに、スペインのリアス地方で栽培が盛んなアルバリーニョを主力とすべく取り組んでいる。赤ワイン向けには、キャンベルアーリー、アルモノワール(カベルネ・ソーヴィニヨン×ツバイゲルト)のほか、マスカットベーリーAも導入した。
陸前高田の年間日照時間は、1700時間と県内他産地よりは多い。しかし雪があまり降らず寒暖差が少ない海洋性気候は、生育期の降水量が1000mm前後と多めなことや、肥えた粘土質褐色森林土の土壌などと合わせ、ブドウ作りにはむしろデメリットだ。だが、海風を豊富に浴びる生育環境がもたらすミネラル感・潮味・爽やかな果実味は当地独自のテロワールである。
そこで熊谷社長は、「魚介と合わせるためだけに造る『シーフードワイン』」を掲げ、「リアスワイン」を開発した。「ペアリングが目的」と言い切っているのはワインの世界では潔いが、極上のシーフードを産する三陸でそう述べることができるのは、品質への深いコミットメントがあればこそだろう。三陸のホタテ貝や牡蠣(カキ)はアジアの各地にも輸出されているので、このワインもそれに合わせて海外に販路を拡大していけるのではないか。
30代の熊谷社長は、自社園地拡大に加え、他のブドウ農家も育成し、生産量拡大を図ろうと考えている。三陸一帯のワイナリーと連携し、スペインのリアス地方同様の、ワイン産地としての文化を根付かせたいというのが願いだ。このような思いが、震災を契機に花開き始めている姿は、まさに「復興」の王道を行くお手本ではないだろうか。
この記事で紹介する各氏が登壇したZOOMセッションの、ちょうど1週間後、筆者は偶然にもこのリアスワインを賞味する機会を得た。岩手県内陸部の一関市で、参加者をワクチン接種者に限定した懇親会に出たのだが、料理も酒も地産地消がコンセプトで、リアスワインも有名な地元日本酒や地ビールと一緒に並んでいたのである。ペアリングにぴったりな味だったのはもちろんだが、果実感あふれる切れのいい酸味、そして何よりもブドウの強い芳香(アロマ)は、それだけで飲んでもじゅうぶんにおいしいレベルだった。一関の面々も、三陸の青い海に、飲みつつ思いを馳せていたようだ。

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