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スマート・テロワールの実践者たち

大津波でも流せない テロワールと人の底力 復興最前線の挑戦者たち(岩手県陸前高田市)



ピーカンナッツの国産化に向けて

米国では、「ピーカンパイ」という菓子が、アップルパイなどと並んで普通に売られている。原材料はピーカンナッツ。北米原産のクルミの一種だが、殻が薄く、苦い薄皮やアクもない。従って生食にも向くが、チョコレート類にもよく使われる。ナッツ類の中でも抗酸化作用が最も高く、今世紀に入って米国では市場が急拡大しているという。しかし日本では、年間300tと、アーモンドの1%にしかならない量が、輸入されているだけだ。
このピーカンナッツのユーザーである、関西発祥の老舗チョコレート店・サロンドロワイヤルと、東京大学、それに6次産業振興を目指す陸前高田市の三者が、2017年に共同研究契約および連携協力協定を締結、当地での国産ピーカンナッツ生産に乗り出した。21年4月には、苗木の育成管理を行なう場として、一般社団法人ピーカン農業未来研究所が設立されている。
陸前高田にはクルミが自生するが、ピーカンナッツの栽培実績はない。しかも収穫までは最速で7年、安定生産には10年を要するという。どの品種をどのように育成するか、大学研究者の助言を受けつつ手探りの研究開発を担当するのは、社団の上岡修代表理事である。
上岡氏はもともと、JTの研究者として、コメの新品種の開発を行なっていた。研究所で開発した「たかたのゆめ」は、JTの社会貢献として陸前高田市に30 kgの種モミとともに権利贈呈され、当地だけで栽培される銘柄米として、生産販売量を拡大している。「あきたこまち」「ひとめぼれ」と同等の食味を持ち、炊き立てはもちろん、冷めてもおいしくつややかで、どんなおかずとも相性が良いと言われており、東北新幹線のグランクラスの食事にも用いられているという。
その縁から陸前高田市の皆さんとの交流を深めた上岡氏は、退職後に、気候が良く食材が極上の当地に移住、悠々自適の生活を楽しもうとしていた。しかし農業技術者としての腕を見込まれて頼み込まれ、ピーカンナッツの苗木栽培というフロンティアに挑むことになったのだ。
地域特産品の常道に反して、ピーカンナッツは、サロンドロワイヤルのチョコレート商品という川下の販路が先に確保できているのに、川上部分がゼロからのスタートだ。
だが考えてみれば、前記の神田葡萄園の創業期などは、川上も川下もなかった。そういう取り組みを試してみたくなるのも、北上高地の大山塊と太平洋に挟まれた小天地である陸前高田の、テロワールのなせる業なのかもしれない。

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